谷 好通コラム

2006年06月11日(日曜日)

1412.受動的動機の弱さ

私の尊敬するガソリンスタンド経営の会社の社長がいる。
すでに4軒のスタンドを運営していて、
そのいずれも大変素晴らしい接客とCS路線を実践して見えて、
実績も上げていることから、
業界では全国的に有名な人である。
その人の講演は、ウィットに飛んでいてしかも真理をえぐる鋭さから、
全国から引っ張りだこでもある。

 

5軒目のスタンドを開く事になったその社長が、
自ら店長としてその店舗に勤務する事になった。
何年かぶりの現役復帰である。

 

私も含めてみんなが「なぜ?」と思った。
立派な経営で会社も安定しており、何も自ら現場に復帰することないはずだ。
「なぜ? 店長を任せるべき人材がもういないのか?」
いや、そうでもないだろう。
この会社の人は本当にみんな素晴らしい。
そういう意味では人材の宝庫のような会社だ。

 

誰であったか、その理由を教えてくれた。

 

その5軒目のスタンドの店長に起用しようと思ったスタッフを呼んで、
社長が言った。
「ドコソコにこんな店があって、いい店だと思うのでやろうと思っている。
そこで、君をその店の店長に抜擢したいのだが、どうか?」と聞いた。(私の空想)
そうすると、
その若者は、
「社長がやれとおっしゃるなら、やります。」と答えた。

 

その答えに、その社長は色々なことを考えた。
「何かおかしい。
私がやれと命じるならやる。というのは何かヘンだ。
会社のみんなと私の関係が何かおかしくなっているのかもしれない。」
(これも私の空想)
そう考えて、
「今度の店は、自分でもう一度店長をやってみよう。」と決心した。

 

この決断に私は大きな納得をした。
この話を聞いたあと、
この社長が店長をやっている新しい店舗のオープンにお邪魔したが、
その話には触れず、社長が現役復帰した事に同感することと、
現役から長く退いていると、体力的には大変ツライ事になっている事に同感だけして別れた。

 

「社長がやれと言うなら・・・」
の言葉は、スタッフの人の全面的な同意と社長に対する信頼の言葉なのかもしれない。
しかし、
「(その仕事に対して自分自身の中には動機はないが、)、社長がやれと言うなら・・・」
という意味になっているのかもしれない。
ひょっとして、後者であった場合には問題である。

 

その言葉の前後の言葉の意味で、
必ずしもどちらかとは言えないが、
後者であった場合には、自分の中から出てきた動機はなく、服従に近いものがある。
悪く言えば“人のせいにする”ことに近いものがある。

 

共感と服従とは違う。
それが服従ならば、残念ながらいい仕事にはなるまい。
その社長はその恐れを感じたのかもしれない。

 

そして、現場から長く離れていたのでその判断が付かないのかもしれないと思って、
もう一度、一時的であるにしても、現場に戻って見なくてはと思ったのではないだろうか。

 

 

仕事そのものの中に強い使命感と、
自分の中に強い動機を持って仕事をすると、それは素晴らしい結果を出す事になる。
仕事には能力も必要だが、その能力もいい仕事を作り上げる過程で得られるものだ。

 

受動的な動機、すなわち服従とか妥協的な同意は、
実は自分本位な一面があって、仕事の役には立たない。
私はいらない。
たぶん、何の役にも立たない。

 

あの社長は、自分を原点である現場に身をおくことによって、
そのような悪しき関係の芽が出来始めているかもしれない恐れを感じ、摘みとろうとした。
それは方法として正しいかどうか私に知ることは出来ないが、
私の場合は、どうすべきなのであろうか。
何が出来るのであろうか。

 

もっともっと学ばなければならない。
初心に帰って、もっともっと学ばなければならない。
上海の、あの日本語の勉強会に出たくなってきた。

 

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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