2004年07月01日(木曜日)
985話 32回のクラッチ
スーパー耐久シリーズも
MINE戦が終わって
次は8月7.8日の十勝24時間レース。
今度はいよいよ私もドライバーとして参加する。
だから、そろそろ練習をしなければと
MINE戦が終わった?17KeePreインテグラを、
サーキットのガレージに一日残してもらって、
レース後の?17で少しだけ練習をすることにした。
?17は、レース中にマフラーが破れてしまうなどかなり傷んでいた。
それでも応急修理で、少しならまだ何とか乗れる。
一緒に十勝に参加する私と畠中は、
とにかくNプラスのインテグラにはまだ乗ったことが無いので、
ちょっとだけでも乗って、Nプラス・インテグラがどんな車なのか知っておきたかった。
レース翌日のサーキットはレースの後始末で午前中はお休み。
私達が走れるのは、午後2時からで、ほんの2本か3本しか走れないが、
それでも良かった。
練習というより、体験というレベルでいいから、
とにかく乗るだけ乗っておきたかったのだ。
実際に十勝に出場する車は、
去年まで使っていたインテグラのボディに
新しくエンジン・ミッション・燃料タンクなどを装着するもので、
今回乗る車とは別の車。仕様も若干違う。
通常のスーパー耐久のレース時間はおおよそ4時間なので、
24時間の仕様はもっと耐久性を重視した車となる。
しかし、24時間の為の車は
タンクとエンジンのコンピューターがまだ未着なので、出来上っていない。
レースまであと一ヶ月余しかない時点で、
私たちとしては、いまだに一度も乗ったことが無いのは非常に不安であり、
出場する体制作りが間違っていたか不十分であったことを認めるしかない。
いずれにしても、今回、初体験のNブラス仕様のインテグラ。
乗って、走らせて見たら一体どんな車であるのか、
期待と不安が交錯する。
乗り込んだへなちょこ?(懐かしい言い方だ)
岩永さんが心配そうな顔をしている。
思いっきり緊張しているのが、手に取るように分かる。我ながら恥ずかしい。
乗って見た。
・・・・・
しかし、
私はわずか4周で帰ってくる羽目に
※「どうしたの~」っと岩永さん
配管の途中で破れていたエキゾーストパイプが、車底を熱し
鉄板を通じてシフトレバーを支えている樹脂製の台を、
ボルトのところで溶かしてしまい、取れてしまった。
まったくシフトが出来ない。
応急の修理に少し時間がかかるので、初体験の1本目はこれで終わり。
あっけなくはあったが、
貴重な経験であった。
※スーパー耐久の戦いの中で破れたエキゾーストパイプ
※ボルトの部分が溶けて、取れてしまったシフトレバーの台
Nブラス仕様のインテグラは、
今まで私が乗っていたN1仕様のレビンとは全く違う車であった。
何から何まで全く違う車であった。
エンジンのパワーの差は想像していたよりは感じなかったが、
各ギヤの比がレビンよりはるかにクロスしており、
シフトアップとダウンをコーナーごとにレビンの2倍ほどしなければならず
何倍も忙しい。
頭がパニックになるほど、シフトアップとダウンに忙殺される。
ステアリングのフィーリングもまったく違う。
今までの感覚だと、とにかく真っ直ぐにすら走ってくれないのだ。
これはとにかく慣れるしかないのだろう。
そして、メチャクチャ音が大きい(マフラーが破れていてせいか?)
ブレーキはマスターバック(倍力装置)を外してあるのでかなり重い。
しかし、これはむしろ私の好みに合っていて、好感を持てた。
何よりこの車のブレーキは、
18インチのホイール内側を目一杯占めている巨大なローターと、
これまた見た事のないようなでっかいブレンボのキャリパー、
そして、耐久スペシャルのブレーキパッド
ガンッと踏むとズシンと効くき、いかにも安定していて大好きである。
・・・・
いずれにしても、とんでもない車であった。
特にギヤの比が接近していて、
シフトアップ・ダウンの頻度がすごく多いのには参った。
レビンの場合、
ストレートは最後まで4速で走りきれる。
それから、第1コーナーへフルブレーキで進入、まず4速から3速へシフトダウン
これを図式化して4速から↓(シフトダウン)3速、
略して4↓3
この書き方で全コースを表現すると、
☆N1・レビンの場合
4↓3(1C)↑4↓3↓2(2C)↑3↓2(3CからHP)
↑3↓2(4C2HP)↑3↓2(シケイン)
↑3↓2(最終C)↑3↑4
MINEの全コースでシフトアップを7回、シフトダウンを7回。計14回クラッチを踏む
☆?17・Nブラス仕様のKeePreインテグラの場合
(ちなみにファイナルギヤを4.7から5.4に上げてある。)
6↓5↓4↓3(1C)↑4↑5↓4↓3↓2(2C)↑3↑4↑5↓4↓3↓2(3CからHP)
↑3↑4↑5↓4↓3↓2(4C2HP)↑3↑4↓3(シケイン)
↑4↑5↓4↓3↓2(最終C)↑3↑4↑5↑6
シフトアップ16回、ダウンも16回、計32回のクラッチを踏んだ。
この車ではストレートは6速まで上げる。
第1コーナー手前でフルブレーキ、
そこから6↓5↓4↓3と、3速まで落とす。
何と200km以上からのフルブレーキ状態で
3回ヒールアンドトゥをしながら、3回シフトダウンするのだ。
これは、“たまんね~なぁ”の世界だ
今回は、練習のため
エンジンを8,000回転までしか回していなかったので、
ヘアピン手前、4コーナーと最終コーナー手前で5速まで上げたが、
実際のレースでは9,200回転まで回す。
そうすると、この3回分は4速までとなり、シフトアップとダウンが3回ずつ減る。
あるいは、
24時間レースでは、8,000回転程度しか回さないが、
ファイナルギヤを[1:5.4]の特別仕様からノーマルの[1:4.7]に落として、
低回転でのドライビングに合わせるらしい。
そうなると、現実には
シフトアップ13回、ダウンも13回となるのだろう。
いずれにしても、シフトのアップとダウンそれぞれ
今までのレビンの約2倍の回数やらなければならない。
忙しいったらありゃしないのだ。
走っている間中、ギヤを上げたり下げたり、
その度にクラッチを踏むわけだから、1周で26回は踏む。
今回のMINEでは、一人70周以上走るので
26×70=1,820回以上クラッチを踏むのか。
さすがにこれは私には出来ない。無理である。
今までのMINEでレビンでJr.耐久で走ったのが最高27周
レビンの場合1周16回クラッチを踏むので
16×27=432回連続でクラッチを踏んだ事があることなる。
その約4倍のクラッチは、私には絶対踏めない。
私の中途半端な左足では、とても持たない。
とすると、
私はMINEでのスーパー耐久にこの車では絶対に出られないということになる。
それはそれでいいが、・・・
では、十勝はどうなのか
十勝インターナショナルサーキットは、
MINEとほとんど同じ長さを持つサーキットで、1周約3.3km
しかし、このコースレイアウトはMINEに比べるとうんと単純な形をしていて、
シフトの回数もMINEほどには多くはなさそうである。
そして
24時間耐久ともなると、
シフトの数は出来るだけ少ない方がいい
特にインテグラの2速ギヤは「ガラスの2速」と呼ばれるほど脆い。
ファイナルギヤの設定で、何とかシフトチェンジを少なくするのだろう。
このインテグラのギヤは非常に弱く、
田中選手たちでも、初期の頃には、よくギヤを飛ばしていたという。
一番弱いのが2速
二番目に弱いのが4速
私が一本目を乗り、4周で帰ってきて
応急修理をして、
次は畠中が出て行ったが、
快調に飛ばし、
さすがにH.オサムと感心していたのもつかの間
6周目ぐらいのストレートで、ギヤを上げていく時、[⇗3⇗4⇗5⇗6]
3速から4速で、4速ギヤを飛ばしてしまった。
本人いわく、
「何も、全部異常なく走っていたつもりなんですが、
あれっ?て感じで、突然4速が無くなりました。」
壊れる時というのはこんなものなのだろう。
壊れるには壊れるだけの理由があるもので、
この場合の壊れる原因が彼の中に一つのクセとして存在するのであろう。
それにしてもあっけなかった。
H.オサムが、思いっきりしょげていたのは言うまでもない。
色々と不安は多いが、
それでも何とかKeePreインテグラ?17に乗ることが出来た。
たった4周ではあったが、
どういう車であるかを、とりあえず知るという目的においては十分であった。
少なくとも、とんでもなくすごい車であることは分かった。
メロメロになったままでのたった4周の試乗であったが、
乗れない車でないことも分かった。
そしてタイムは、
4周目に1分50秒5
レースタイムの6~9秒遅れ。
はじめての車に乗って、それがまったく違う車であって
たった4周だけで、オタオタしてる状態で
こういうタイムが出ているとは自分でも思わなかった。
それだけタイムので安い車であるということであろう。
「何と乗りにくい車だ」と思ったのに、
実はすごくタイムの出し易い、乗り易い車なのだろう。
正直言ってびっくりした。
次に乗った畠中が、4速を壊してしまうなど、がっくりではあったが
それでも1分45秒台である。
決して、タイムを狙うような走りはしなかったと本人が言っていた。
なかなかである。
というより、“すっげ~”である。
問題は「壊さないように乗る」こと。
私も、
少なくとも、まったく乗れない車ではないことは分かった。
MINEを1周につき32回クラッチを踏みつつ
それでも乗ることが出来ることは分かった。
問題は「壊さないように乗る」こと。
次は、7月中旬
やっと出来上がってくる24時間レース本番用の?17インテグラを持って
北海道・十勝サーキットに合宿に行く。
車の持ち込みと、向こうでの色々な手配を含めて4日間。
その内、正味2日間は朝から晩まで、
とっぷりと?17のコックピットで、
十勝のサーキットと、Nプラスクラス・インテグラを体に染み込ませる。
本気なのだ。
それにしても、
こんな激しい車を、スーパー耐久では
田中選手も、石川選手も
何と2時間も連続で激しいバトルを繰り広げながら、
しかも、壊さずに乗っている。
この凄さと大変さを、私は実際にこの車に乗るまで、
解かっていなかった。
実際に体験すると、
あるいは立場が変わると、
やっと解かることってあるのだ。
本当にそう思った。