谷 好通コラム

2024年11月10日(日曜日)

11.10. 海くんは、彼は自然の中で幸せだったのだと思うのです。

海遊館のジンベエザメ「海くん」が、
5年間棲んだ海遊館のプールから出され搬送、放流され、
入れ替わりで新しいジンベエザメがプールに入れられたらしい。

さらに「海くん」は、生態研究の為に、
今年10月初めに高知県土佐清水沖の海に放流された。
その後、行方が分からなくなっていたところ
11月5日に愛媛県宇和島の岩松川で見つかり、
6日には死んだと報道された。

海くんは5年前、高知県土佐清水沖で捕まえられて
海遊館というプールに入れられて、
毎日決まった時間にエサを与えられ、育てられた。
5年間。
すべて、人からされるに任せるしかなかったのだ。
その末に、研究の為にと放流されて、そこからは何もしてもらえることなく、
自分で行く所も決め、自分で泳ぎ、
5年ぶりに自分でエサが獲れたのか、食べられたのか、
ひょっとしたら、
食べられずに、飢え死にしたのではないか。
5年間のいつものようにしても、誰も口にエサを入れてくれないし、
誰も遊んでくれなくて
一人ぽっちで何も分からないまま、お腹が減って、寂しく、お腹が減って、
寂しくって、悲しくって、お腹が減って、
また口を開けても、5年間のようには誰もエサを口に入れてくれないので、
どうしてこうなったのか解らないまま、悲しく飢え死にしたのではないか。
どうしてこんなことになったか。

ネットで調べてみた。
・・・・
海遊館が初めて出来たのは約25年前。
私もその頃に見に行ったことがあり、
その時も確か「海くん」という巨大なジンベエザメがいた。
だから今回死んだのは、
その25年前のジンベエザメかと思ったのだが、そうではないらしい。
今回死んだ海君は、5年前から飼われていた個体だという。
そして海遊館のジンベエザメは代々「海くん」と言うことも。

いずれにしても、
どうしてこんな事になったのかよく分からない。

 

そこで
たまたま知り合いの元海遊館関係者に電話をして聞いてみた。

 

ジンベエザメは海遊館の大プールで
もともと体長6mになったら、放流される予定になっているものらしい。、
世界最大の魚類ジンベエザメが大きく成長してくると、
健康面とか行動面にだんだん支障が出てくるものだという。
というのか、言い方を変えれば、
海遊館の大プールでは、ジンベエザメを一生飼い続ける事は無理なのだという。
あんな巨大なプールでも、
どんどん大きくなるジンベエザメの成長のすべてを受入れることは出来ない。
最初から体長6mになったら放流される予定で新しい個体を仕入れるのだ。

それで大きくなって放流されたジンベエザメは、
太平洋に泳ぎ出て、野生を徐々に取り戻し、
あわよくば繁殖も果たして、ジンベエザメとしての一生を全うするはずだった。
その行動を、発信機でとらえ、ジンベエザメ生態研究に役立てようというもの。
この生態研究が放流の第一義とは思えないが。

 

海遊館という限られた施設での
ジンベエザメ展示の宿命的なサイクルという事なのでしょうか。
それでも飼育者達は大きくなった海くんに何とか自然に戻って欲しいと願い、
その個体が捕獲された場所である土佐清水の海にまで行って放流している。

 

しかし、今回の「海くん」の死は?
今回の「海くん」は背びれが曲がっている(右に?)ので、
放流されてから泳いだ進路が自然に右に大きく回って、
土佐清水から愛媛宇和島の松岩川河口にまで行ってしまい、
河口の汽水域で、懐かしい人間の臭いを感じて、
思わず川をさかのぼって真水の川に入ってしまい、
海水の中で生きていられる体の構造の世界最大の”魚”であるジンベエザメは、
たちまち死んでしまったのではないでしょうか。

 

しかし、多くの人はそうは思わないだろう。
特にSNSの世界では、その時、感じたそのままを感情的に書く。
しかも、あの海くんが25年前と同じ海くんだと思っているので、
「25年間も海遊館で生きて、私達を楽しませてくれた海君を、
新しいジンベエザメが来たので、とっとと捨てて見殺しにし、
挙句の果てに殺した。
海くんは25年間のいつものように、エサを欲しがる仕草しても、
誰も口にエサを入れてくれないし、誰も遊んでくれなくて、
お腹が減って、寂しく、お腹が減って、悲しく、人に裏切られて殺された。

 

そう騒ぎ立てるのではないか。
その方が簡単で、分かり易く、センセーショナルなストーリーだから、
しかしそうなったら、
海遊館には行かなくなる人が多くなるだろうし、
そういう分かりやすく、信じやすいデマは、拡がるのも早い。
海遊館は非常に、非常に厳しいことになる。

 

しかし、私は思う。
海遊館の大プールで5年間、大きく成った海君は、
5年ぶりに自然の海に放流されて、もちろん最初は驚いただろうし、
5年間もらい続けたエサももらえないので、ツラかっただろうが、
5年ぶりの自然光は、まぶしくも嬉しかっただろうし、
自然の海のニオイは懐かしく、
何より自由は、感動的に嬉しかったのではなかっのだろうか。
5年間の生きるのには楽だが、
限られた世界での生活は息苦しかった。
食べるのには大変だが、放流からの約1か月、海くんは幸せだったのだと思う。

しかし、右に曲がった背びれが進路を大きく右に曲げてしまい、
土佐清水から愛媛宇和島の松岩川河口にまで行って、
河口の汽水域で、懐かしい人間の臭いを感じて、
思わず川をさかのぼって真水の川に入ってしまい、
海水の中で生きていられる体の構造の”魚”であるジンベエザメの海くんは、
静かに死んでしまったのではないでしょうか。

その時も、
海くんは、彼は自然の中で幸せだったのだと思うのです。
きっと海遊館での静かな5年間を思いながら、
それでも自然の中で、私は、海君はきっと幸せだったと思います。

 

海遊館のホームページより

 

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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