谷 好通コラム

2004年10月27日(水曜日)

1048.元気を放射する人

(これは26日の出張の新幹線の中で書き始め、
27日の帰りの新幹線の中で書き終わったものです。)

 

上海・浦東空港のイミグレーションで出国審査を受ける時、
運が悪いと長蛇の列に並ばなければならないことがある。
特に団体さんが重なった時など、
気が遠くなるほどの時間を立って待たなければならない。

 

そんな時、
必ずと言っていいほど“割り込みのお願い”がある。

 

1時間ほど並んで、
やっともうじき順番が回ってくるなと思うころ、
人の良さそうな中国人のオジサンとかオバサンがやって来て、
ニコニコっと愛想笑いをしながら
ペコペコと頭を下げて
「小さい子がいるので、ちょっとだけ前に入れてくれませんか」
と言う。
中国語が解かる訳ではないが、
そんな感じのことを言っているようだ。

 

たいてい、日本人の前に来て言う。
それで、
外国に慣れていない日本人は
「どうせもうすぐ自分の番なのだから・・」と気を許して、
「どうぞ」なんて言う。
すると、
「謝々、謝々、謝々」と言って、満面の笑顔で礼を言って、
後ろの方に向かって手を振る。
誰かにこっちへ来いと手で招いているのだ。

 

とすると、10人ぐらいの中国人の家族らしき団体が、
ドヤドヤとやって来て、その人の前に入る。
たしかに小さな子も一人ぐらい混じっている。

 

後ろに並んでいた私が、
怖い顔をして
「オイオイ、ちゃんと後ろに並べよ!」と文句を言う。
(日本語でも、怖い顔をして言うと通じるのだ。)

 

すると、
先程の人の良さそうなオジサン又はオバサンが
今度は怖い顔をして、
きつい口調で私に言う。
「あんたには関係ないでしょ。
あんたの前にいた人が入れてくれたんだから。
それにこの連中は私の家族なんだから、私が自分の前に入れた。
それが何が悪いの。」
中国語でまくし立てるので、私には中国語としては分らないはずなのに、
なぜかそう言っているのが解かるのだ。

 

これが“割り込み願い”の標準的パターンだ。

 

すごいインチキ論理である。

 

1.あんたの前に入ったわけではない。
2.あんたの前の人の前に入ったのだから、後ろのあんたから文句言われる筋合いはない。
そして、
3.私の前に私の家族を入れたのだから、それが何が悪い。

 

完璧である。

 

この訳の解からないインチキ論理に対して、
すぐに論理的に反論できる人はなかなかいまい。

 

これに加えて、割り込んだ10人の中国人家族の、
抗議の目線が加わると、インチキ論理により迫力が増すのだ。

 

こんなインチキ論理がまかり通る環境で育った人とビジネスしていいのかなぁ。
時々そんな風に考え込んでしまうことがある。

 

この人は、あるいはこの家族は、
イミグレーションの順番をインチキし、
何十分かの並ぶ時間を短くできたという得があったとしても、
それを見ていた私は、
この家族のことを軽蔑したし、
この家族の元で育った子供にまで、
今後何かで出会ったら、絶対に関わりになりたくないと思った。

 

少なくとも、この人たちは、
私という世間を狭くしたことになる。
少なくとも、私との関わりという可能性をなくしたことになる。
もちろん、将来、私との関わりが起きる確立など何万分の一かもしれないが、
その何万分の一ほどの可能性を失ったことになる。

 

少なくとも、この家族の子供は、
目先の得を取る為には、
人に損を与えることがあってもかまわないという“しつけ”を
親から実践として受けたわけで、
その身勝手さの矛先が親に対して行われることも大いにあり得る。
その意味で親は、
多分、大きな将来の損を背負ったことになるのだ。

 

目先の得を取って、
自分の可能性を狭め、自分の将来に大きな損を背負う結果を持つという
こんなインチキ論理は中国の専売特許ではない。
私たちの周りにだっていくらでもある。
いくらだってある。

 

 

今日は、朝会社に出て、
一仕事のあと岡山に向かい、そこで仕事をし、夕方には「三原」までやってきた。
三原には、“坂井さん”という人がレーシングショップを開いていて、
快洗隊の畠中君とそこを尋ねた。

 

レーシングショップSAKAIには、畠中修ことH.オサムの青春がある。
4年前に私と知り合う前、
H.オサムは自分をアイルトン・セナと勘違いして
レースに青春をかけていた。
本気でレースに生活のすべてを賭け、“F1レーサー”を夢見ていたのだ。

 

そんな時に、
レースの世話をしてもらっていたのが、レーシングショップSAKAI

 

4年前、私はH.オサムからキーパーレビン?25を買った。
そのキーパーレビンを製作したのが
このレーシングショップSAKAIである。

 

若いころ、プロレーサーを夢見て、
H.オサムは、このショップに足繁く通ったと言う。
彼の家は下関。
レーシングショップSAKAIのある“三原”からは、新幹線で約1時間半。
車で走れば3時間以上は掛かる。
そんな所まで、わざわざ彼は通ったのだと言う。

 

そして帰り道は、
みんな、“酒井さんに元気をもらって”、
盛り上がりながら帰ったのだという。
それも高速を走るお金がないので、わざわざ下道を走ってだ。

 

私は、彼と4年前に出会うまでのことを何も知らないが、
聞いた話によると
彼も、レースに青春を燃やしつつも、
お金の掛かるレース活動を続けることを断念する時がやってきた。
そこまでの才能でしかなかったと言うこと。

 

そして、レースをやめ、愛する人との結婚を決意して
彼の愛車を私に売ったのだ。
私と彼との縁とは、そこからの縁である。
(愛車を売ってレースをやめたはずの彼が、
なぜまたレースに出ているのかそれは、またいつか話そう。)

 

彼がレーシングショップSAKAIを今日訪れたのは4年振りであった。
それ以前から酒井さんのことは彼から何度も聞いていた。
「勢いだけで生きてきた人です。」とか
「すごい個性の持ち主で、あの人を好きな人は、とにかくものすごく好きになります。」とか
いろいろ聞いてきたので、
初めてあったような気がしなかった。
(実は一度だけサーキットで挨拶だけはしていた。)

 

とにかく徹底したポジティブシンキングの持ち主である。
何かやりたいと思ったら、
出来るかどうかなんて考えない。
どうやったら出来るかだけを考え、実際にやってしまう人のようだ。

 

こういう人が今のH.オサムという
ボジティブシンキングのかたまりのような男を育てたのかもしれない。

 

 

事務所?

 

 

酒井さんから学んだこと。
「何を作りたいと思ったら、
どうやれば作ることが出来るか“だけ”を考える。
『はたして作れるだろうか。作れなかったら、努力した分だけ損になる。』
なんてことはこれっぽっちも考えない。
どうすれば作れるか“だけ”を考える。」

 

そんなポジティブな念波を、彼は放射し続ける。
その念波をたっぷりと浴びせられて、H.オサムたちは元気をもらったのであろう。

 

彼のショップは狭くてごちゃごちゃしている。
ごちゃごちゃと言うより、グチャグチャと言ったほうがいいかもしれない。
しかし、そのグチャグチャの中に
信じられないようなすごいものがいっぱいあった。

 

たとえば、レース好きに熱狂的に愛されているAE86レビンのボディーに、
トヨタのレース部門を担うTRD製のアルテッツァのレース用エンジンを、
無理やりに乗せてしまったもの。
800kg足らずの車重に、300馬力(多分)以上のエンジンという化け物だ。
この86レビンは、
TIサーキットで開かれる86だけのレースの全国大会で優勝。
日本一になったと言っていた。

 

 

やりたいと思ったら、やれるようになることだけを考える。
やれなかった時の損を考えたら、
何もやれることはない。

 

そんなポジティブな姿勢が周りに元気を与えるものだ。
酒井さんは元気の素人間である。

 

目先のチマチマした自分だけの損得を考えていると、
図々しくも、“割り込みのお願い”をして、世間を狭くするあのオジサンの様になってしまう。

 

人に元気を与える人が良いか、
並ぶ順番をごまかして得をしたと思う人になりたいか。

 

 

本文とはまったく関係ない話。

 

アイ・タックの開発部門の責任者が足にギブスをはめて出社した。
なんでも、
町内のバレーボール大会に出て、
ネット際でブロックをしようとジャンプをしたところ、
着地点に他の人の足があって、その上に乗ってしまった。
その時足をくじいて、
じん帯が2本切れて、剥離骨折の影がレントゲン写真に写っていたそうだ。

 

 

ここに載せて、何か意味があるのかといえば、何もないが、
どうしても載せたくて、載せただけのことです。

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
    読めば読むほど元気になること間違いなし。・・・の、はず。

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