谷 好通コラム

2006年06月19日(月曜日)

1417.クラス2位表彰台

私がスタートドライバーである。

 

1周4,563mのFISCOを21周回る「ゴルフGTIカップシリーズ富士戦」
ドライバーは1人でも2人でも良い。

 

しかし1人で走る場合でも、
一回はピットインして、
一度車を降りてまた乗るというドライバー交代と同じような動作を義務としている。
言ってみれば、耐久レースのような形式のミニ耐久のようなレースで、
この形は、ここ富士戦だけ。
他のサーキットのレースでは、10周前後のスプリントレースとなっている。
だから、私の初戦である富士戦では?快洗隊の畠中修(レースではH.オサム)が、
助っ人として参加してくれたわけだ。

 

ゴルフGTIのワンメイクレースではあるが、
レースでの実績のあるドライバーの「エキスパートクラス」が4台と、
そうでもない「クラブマンクラス」が13台の二つのクラスに分け、一緒に入る。

 

予選は、H.オサムが出た。
タイムは「2分11秒493」
総合6位、クラブマンクラスの2位。
さすがである。

 

※予選の結果
http://www.fsw.tv/race/mileage_detail/200661718211.html

スタートドライバーは谷 好通
8周~9周で交代の予定だ。

 

私は、タイム的にいつもH.オサムの1秒半落ちなので、
クラブマンクラスの真ん中ぐらいでは走れるはず、
その私がスタートドライバーということは、
私に課せられたテーマは「如何に抜かれずに8周走って帰ってくるか。か?」
ブロックをするという意味ではない。
必死に逃げる役割であるということだ。これはこれでけっこうツライ。
レースは何でもそうだが、追いかける方が楽なのだ。

 

コース上に並ぶ。

 

 

レースにはスーパー耐久の田中選手と松永選手が応援に来てくれた。
FISCOの近くにある東名スポーツ(スーパー耐久のメカニックサポート)に、
トラックを取りに来たついでにということだが、すごく嬉しい。

 

 

スタートはローリングスタート。
さすがにノーマルカーでのスタート、実に静かなのだが、
一斉に1コーナーに殺到する迫力は、いつものレースと同じだ。

 

コーナーでの競り合いには絶対に負けない。
性能的にほとんど差がない車同士の競り合いは、
自ら引かなければまず抜かれない。
1コーナーも、高速の2コーナーも、続く100Rも、
前の車に必死でついていき、ヘアピンでは後ろからインに入られそうになるも、
歯を食いしばってインを締める。
バックストレートを経て。鋭角に回り込むシケインは私の苦手、
しかし狭いコーナーが続く終盤のセッションは、そう簡単に抜ける場所ではない。
問題は、きつい最終コーナーを抜けてからストレートに戻った時、
「スリップストリーム」に入られるかどうかだ。

 

スリップストリーム(単にスリップと言う)とは、
ストレートで、前の車の後ろにぴったりとくっつき、
前の車が巻き込む空気の流れの中に入ると、
後ろの車が吸い込まれるようにスピードが増すのだ。
そのスピードを活かして、サッと車を横に振って前の車を抜くテクニック。

 

後ろに着かれない様に自分のコースを変えればいいのだが、
一回コースを変えたら、何度も変えることは出来ない。
(“蛇行”とされペナルティを取られるから。)
シルエットの大きいゴルフGTIは、
自らの起こす後流の中に一旦ぴったりと後に着かれたら、観念するしかない。
それでも、スリップは
スピードが出ている状態で、
追突しそうになるくらいまでくっつかなければ(1m以内?)効果がないので、
そう簡単に出来るテクニックでもない。
ゴルフGTIは驚くほど高速でスピードが伸びる車で、
ストレートエンドでは何と230km/hまでスピートが出るのだ。

 

が1周目、早くもスリップに入った車がいる。
競り合いながらの最終コーナーで私は早くハンドルをこじり過ぎて、
立ち上がりのスピードがわずかに遅かった。
スリップに入った後の車の姿がルームミラーいっぱいに広がり、
スーッと横を抜いて行く。なすすべもない。

 

2周目、どこかでまたもや1台に抜かれる。
元々、私とタイムが違う2台、仕方ないかとも思うが、
これでクラス4位になってしまった訳で、これ以上は絶対に抜かれたくない。

 

3周目のストレート、
また一台スリップに入って、私を抜こうとしている。
インに逃げれば、抜かれたとしても1コーナーでのブレーキングの我慢比べで、
インを差すことが出来るのだが、どうしようかと考えながら
中途半端な位置でストレートを進んだら、
エンドで後の車がいなくなった。
見失ったまま右コーナーである1コーナーに突っ込み、立ち上がる時、
不意に左に車が現れた。
つまり、ストレートでスリップから外側に振って私を抜こうとしたのだが、
抜ききれずに、1コーナーで外側から抜こうとしてきたのだ。

 

立ち上がりでは車は外側に膨らむ。
そこに相手の車がいたのだから、たまったものではない。
「ドガンっ!」という音と共にぶつかった。

 

しか、ぶつかりながらもアクセルだけは絶対に緩めない。
相手は、多分、コースの外に少し出たのだろう。後に引いていく。

 

そのまま2コーナー、100R、ヘアピンと来たところで、
ぶつかった後の車がエキサイトした様子で、しきりにプッシュして来て、
あぶないので前に出す事にして、インを譲った。
ヘアピンは左コーナー、
自分がアウトに出れば、私とぶつかった場所を見ることが出来る。

 

ぶつかった相手はナンバー1番のGTIであった。
彼のボディ右側は、ドアから後までかなりへこんでいる。
ということは、自分の車もあれぐらいはへこんでいるということか。
「ありゃ、やっちゃった。快洗隊に直してもらおっ。」
と、独り言をいいながら、
必死にナンバー1番に着いて行くが、じりっじりっと離される。
これでクラス5位。

 

ここまでの競り合いを後ろで見ていた数台の人たちは、
私のことを、「物騒なオッサン」なんて思ったのではないだろうか。
そんなことはないのに。

 

私の出番の中の後半、55番が迫ってきた。
5周目か6周目、ストレートでスリップに入ってきて、わずかに前に出られたが、
1コーナーでインに着け、かなり一生懸命、抜き返した。
55番は、自動車雑誌で有名な女性「竹岡圭さん」が乗っている車、
今回のレースの“花”であったので、
その車を乱暴にも強引に抜き返した私は、きっと“悪役”になっているだろう。
そんなことを考えながら走っていたら、
やっと落ち着いてきたのか、ようやくタイムが上がって来た。
競り合いをしている時は、ガクンとタイムが落ちるもの。
やっと上がってきたタイムで、
後の車が徐々に離れて行く。
と同時に、前に行った車までがずいぶん近くに見えるようになった。

 

7周目、「P」のサインが出て、
8周目のピットインの指示が出るはずなのだが、何もでない。
Pのサインどころかタイムも出ない。
(後で聞いたら、うっかりしていたそうだ。)
8周目、やっと「P」のサインが出て、9周目にピットインする。

 

クラス5位まで下がったが私のノルマの範囲ではある。
(後で聞くには、先に行ったどれかの車がペナルティを食って、私達はその時4位であった。)

 

55番もすぐ後からピットインして来た。

 

ビットでのドライバー交代はなんと事前に「練習」をしていたのだ。
最低限の25秒で作業を終える。

 

 

ピットアウトする時に、ピットロードを55番が進んできて、
マーシャルに「ストップ」をかけられてしまい、55番を先に出す事になってしまった。
出ようと思えば余裕を持って出られたと思うのだが、
えこひいきとは決して思わないが、あそこは出して欲しかった。

 

※自分の仕事を終え、この時が一番幸せなのです。

 

 

せっかくクラス4位で帰って来たのに、
出て行くときは5位。
しかしそのことよりも本当の痛手は、
なかなか速い美人が乗る55番を抜くのにH.オサムは4周もかかってしまい、
その事によるタイムロスは10秒近くあったはずだ。

 

55番を抜いてからのH.オサムは速かった。
12秒台を連発し、クラスのタイムレコードを次々と更新していく。
何周目かに、目の前に追い詰めた2台を怒涛のごとく抜き去り、
あっという間に、クラス2位まで浮上。
残すはあと1台だけだ。
両車間のタイム差は約20秒、徐々にではあるが間を詰めていく。

 

しかしわずか21周のレースは、
その差を11秒にまで縮めたところでゴールとなった。

 

チェッカーを受けて、いつものようにビットウォールギリギリに走って来る。
※今回唯一の走っている?25我がキーパーゴルフの写真。

 

 

結果は、総合17台中6位、クラス12台中2位。
初めての出走で上々の出来である。

 

何年ぶりかで乗った表彰台。

 

 

感激である。

 

※このレース決勝の結果
http://www.fsw.tv/race/mileage_detail/200661718212.html

 

 

しかし、この表彰は暫定表彰であって、
本当の表彰は、もっともっと大げさなものであった。
このレースは実質的にフォルクスワーゲンの主催で、
ファンの感謝デーと宣伝を兼ねた催しであり、
フォルクスワーゲンジャパンの副社長(ドイツ人)まで来ていて、
かなりの時間をかけて、立派にとり行われた。
観衆は200名ほど、
カメラマンに至っては10人もいるのだ。

 

タイムアタックの表彰に始まり、
メインイベントである我々GTIの表彰は一番最後であった。
先にエキスパートクラスの表彰。
このレースはあくまでも初心者向けのレースなので、
エキスパートクラスは、エキジビション的な意味を持つのか、
表彰はされるが賞金はない。
私たちのクラブマンクラスがメインであるらしい。
2位である私達には何と「10万円」の賞金が送られる。

 

先に行なわれたエキスパートクラスの表彰で、
みんな真面目にインタビューに答えているのに
2位の浜崎選手が面白い人で、
「昨日行った御殿場のラウンジ(ホステスさんのいる飲み屋さん?)はひどかった。」
とだけ答えて、大爆笑を受けた。
この人は、このシリーズの常連さんのようで、
司会の人も、これを洒落と受け取り、上手に洒落で返してまた爆笑。

 

これを見ていたH.オサムが、
「へぇ~、あの人もあの御殿場のひどいラウンジに行ったんだ。へえ~っ」
としきりに感心している。

 

やがて、最後の私たちの表彰。
私たちのインタビューは、そのまた最後の一つ前だ。

 

例の55番の人気者の女性のインタビューが、
楽しい雰囲気の中で、かつ、カメラのフラッシュが何十回も焚かれる中終わり、
私たちの出番が近づいてくると、
H.オサムが、
「インタビュー、ウケ狙っていっていいですか?」と、訳のわからないことを言う。
悪い予感がした。

 

しかも悪い事に、司会の方が
「畠中さん、レースはいかがでしたか?」と言いながら
マイクをH.オサムに渡してしまった。

 

H.オサム
「エキスパート2位の浜崎さんも、御殿場のラウンジに行ったと言ってましたが、
私達も行きましたっ!(きっぱり)
確かにひどいラウンジでした。
それで、私達も浜崎さんも、
あのラウンジに行ったので、1位ではなく2位になったのだと思います。
たぶん、あの御殿場のラウンジが悪かったのです。」

 

堂々と大きな声で、
なんとも変なスピーチをやってしまった。
場内は、見事にシ~~~ン、シラ~~~となり、ニコッとする人すらいない。
もちろんフラッシュなど一回も焚かれない。シャッターの音もしない。
シ~~~~ン、シラ~~~~である。

 

あまりもの無反応に、はずした事にやっと気が付いたH.オサムは、
「あ~、はずしてしまった。」と小声でボソボソ。

 

そこで、つい
「すいませんっ。・・・こいつちょっと馬鹿だもんですから、」
私は隣で頭を下げて、
「私は54歳で92kg、こいつは少し速いですけど、私は遅いです。
で、今度のレースからは私だけが走ります。
だから、・・・・・え~~、安心してください。」
自分でも訳のわからないことを言ってしまった。

 

私の話にもまったく反応なし、カメラはこちらを向いてもいない。
私も、見事にはずしてしまったのは間違いない。

 

それでもみんなで記念撮影。
バツの悪そうな顔をしている私達二人。

 

 

立派な表彰会に、不釣合いな私達。
次から私だけが走るスプリントレースでは、表彰されることはないかもしれないが、
品位のありそうなこのレース、
いずれにしても、前途多難である。

 

 

レースが終わって、Cパドックに帰って来た時、
雲に隠れてまったく姿を見せなかった富士山が、
その雄大な姿を、
ほんの少しだけ見せてくれ、
私達に、「よく、やったね」と、ご褒美をくれたような気がした。

 

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    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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