谷 好通コラム

2010年10月07日(木曜日)

2625.俺のために働いている人、手を上げて

社内の会議で何のために働いているのかと言うような話題になった時、
社長である私は自分を指して
「俺のために働いている人、手を上げて」と聞いた。
もちろん誰も手を上げるわけがない。
当たり前だ。

 

誰でも、
生活のため、
家族のため、
自分の夢を実現するため、などなど
それぞれがきちんと働く理由を持っているのであって
誰もその会社の社長のためであるとか上司のために働いているわけではない。
当たり前のことだ。

 

経営者がそれをもって忠誠心がないとか言うのは、勝手な言い分であろう。
社員にとって如何に尊敬すべき経営者であろうと上司であろうと
その個人のために働くことはあり得ない。
あえて断言する。

 

ならば経営者は社員のために働いているのか。
もちろんそうだ。
それも大きな目的のひとつである。
しかし自分のためにでもある。
自分の生活のため、
家族のため、
自分の夢を実現するため。などなど。
社員の目的と大きく変わるものではない。

 

すると、
会社を構成する経営者と社員など従業員がそれぞれ自らに目的を持っていて、
しかも、従業員の給料が出来るだけ低く済んで、
出来るだけ成果が大きければ、会社の利益が大きくなり、
自分の収入を自分の意志で決定できる唯一の存在である経営者の収入も増える構造は、
経営者と従業員との利害が一致しない、
労使の関係そのものが利害が一致しない敵対関係なのだろうか。

 

私はそうは思わない。
会社の経営者とそこで働く者が本来的に敵対関係であったのは
マルクス・ヘーゲルの時代の前近代的な世界であって、
世襲的に権力を有する支配者的経営者と、
一方的に搾取される側とする労働者の関係は封建的であり、
現代の世界ではその関係は解消してしまっていると思う。

 

その理由は非常に簡単だ。
経済が発展してすべての人が豊かになり、
それぞれが持つ大きな消費力が経済を支え発展させているのであって、
物を供給する側と、消費する需要側が、完全にオーバーラップしてしまったからだ。

 

経営者が経営する会社の業績は、
消費者、つまりお客様が「買う」「買わない」という行為で、すべて決定される。
つまり、消費者が何をどう買うのかは社員という消費者でもある存在にしか分からない。
消費者でもある社員が、自分の感性に照らし、お客様の感性をつかんで、
消費者が欲しい物を企画し、作り、
消費者が望む方法で販売する。
それは支配的な経営者には出来ないことであって、
お客様でもある従業員にしか実現できないことになった。

 

かの昔、たとえば明治時代、大正時代、戦前、みんなが貧しく、
消費財が乏しく、種類もなく、
必要な物を買うにはどれも選択の余地がなかった。
供給するものが造った必要な物を、選ぶことなく買うしかなく、
供給側が需要側に対して一方的に商品を供給すればよかった。

 

会社にとって社員の意見は必要でもなく、
社員の創意工夫もそれほど必要ではなかった。
だから、一方的に経営者の言うとおりに働く社員が良い社員であり、
当たり前のように経営者は社員に忠誠心を求めた。
会社は支配者と被支配者、隷属の関係で成り立ったのだ。

 

しかし現代においては、
国民全体が豊かになり、
消費物のすべてにおいて、
消費者としての選択で、自分の好きな物を「買う」ことが出来るようになった。
供給者の一方的な優位は消え、
需要側である消費者に「買う」「買わない」という選択権が移って、
今の優位性は一方的に消費者にある。

 

すると、
豊かな社員であると同時に豊かな消費者でもある社員の、
消費者としての感性と創意工夫がなければ、
消費者に受け入れられ「買いたい」と思ってもらえる物を造れなくなったし、
消費者に受け入れられるようなサービスを提供できなくなった。
社員・消費者の感性と創意工夫がなければ会社を繁栄させられない時代になっている。

 

会社を繁栄させ、会社としての利益を上げるのは経営者の大きな仕事である。
そのためには自らの会社の製品・サービスに
お客様が「買う」選択をいただく必要がある。
今の時代、経営者も一生懸命に消費者・お客様のことを考えるのだ。
お客様が顕在的に持っている欲求、潜在的に持っている欲求、
その現在と将来を見通し、判断して、社員と一緒に作り上げていく。

 

社員は自分の会社を発展させ繁栄させることによって仲間が増え、
職務範囲も広がり、地位も上がり、収入も増える。
そのためには一生懸命に消費者・お客様のことを考え、
お客様が顕在的に持っている欲求、潜在的に持っている欲求、
その現在と将来を見通し、判断して、経営者と一緒に作り上げていく。

 

つまり経営者と社員は、一緒になってお客様のことを考えていけばいいのだ。
お客様のことを本気になって、一緒に考えていけば、
結果として、
それぞれが持っている目的であるところの
生活のため、
家族のため、
自分の夢を実現するため、などと共に
お互いの幸せが、高い次元で両立して実現していくはずだ。
あくまでも結果として。

 

現代において経営者と社員は決して敵対関係などではない。
同じ目的を持ち、「お客様」という同じ方向を見ている同志であるはずだ。

 

経営者とは、前近代的な支配者でも権力者でもなく、
一番能力が高く、
現場においてものを見ることに長け、
高所大所に立って物を見ることにも長け、
お客様のことを一番、我が事として感じることができ、
何より一番働き、一番大きく貢献できる者であるべきである。

 

社員は、経営者に支配され働かされている者でも、被害者でもない。
能力が高く、
現場においてものを見ることが出来、
高所大所に立って物を見ることも出来、
お客様のことを我が事として感じることができ、
働くことをおしまず、大きく貢献できる者の集団であることを目指すべきだろう。

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    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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