谷 好通コラム

2014年11月03日(月曜日)

11.03.「解かってしまった症候群」の人には恐ろしいIPSレース

仕事をしていく内に、
いずれは役職として人の上に立つ時が来る。
それが係長であり、課長であり、部長であり、取締役であり、
上位の役職になるにつれて管轄するべき人の数が増え、
話をする時や、文章の書き方が、
下の向って語りかけるような上からの言葉になってきて、
そうしているうちに、
自分は仕事において、もう完成したと勘違いすることがある。

 

あるいは、
自分の能力として
それ以上は理解できない時点まで来ると、
自分が理解できることは、もう理解してしまったので
逆に、すべてのことがもう解かってしまったと勘違いすることがある。
「解かってしまった症候群」とでも言うか。

 

そうなると、
その人はもう解かってしまったのだから、
どんな経験をしても、
どんなことを教えられても、
自分の解かっている範囲の中ですべてを解釈し、判断して、
新しいことを、自分の中に受け入れることがなくなって、
つまり”学習”することができなくなって、成長と進化が止まり、
その人は低いレベルで停止してしまう。

 

その停止時期が早ければ早い程、
少ない経験と、少ない学習、少ない進化しか得ていないので、
低いレベルで能力と知識が止まってしまうのだけれど、
本人はもちろんそのことに気が付かない。
もう解かっていると錯覚しているのだから、
自分が知らないことが、
もう知って解かっていることの、
何倍どころか何百倍もあることなんて気が付く訳がない。
実は、人の教育、すなわち会社の成長とは、
この症候群との戦いと言っても過言ではない。

 

そんな成長の停止を打ち破る可能性があるのが、
“スポーツ”なのではないだろうか。

 

たとえば陸上競技。
一昨日、町田の陸上競技場で見た競技会は、
全国から200人の参加者が集まった。と言っても、
地方の大会を勝ち上がってきたわけでもなく、
自分の足に自信があって、好きな人たちが、自分の意志で集まった大会。
それなりに腕自慢、足自慢の人たちの競技会なので、
それなりのレベルであって、なかなかの記録であったらしい。
だから、その競技会で勝ったのは、
自慢してもいいことではある。

 

しかしそれで、
自分が一番であり、
自分より速い人はいないと思っている人はいない。
あるレベルで速いだけであることを知っている。
ある程度のレベルで勝っても、
その上に、もっと本格的なレベルの人たちがいて、
そういう人たちと走れば、とてもトップは走れないことも知っている。
だから、もっと速く走れるように技術を学習し、
体を鍛えて、練習をする。
すると、もっと速い、違う世界が見えてきて、
今まで、自分が一番であった世界からは見えなかった自分が見えてくる。
そういうことが繰り返されるうちに、強いアスリートになってくるのだろう。
だろう、と思う。
そこに、
「解かってしまった症候群」が入り込む余地はない。

 

モータースポーツの世界では、
何十種類ものカテゴリーのレースがあって、
そのレースに出る人たちも、それぞれのレベルで競うことになる。

 

日本で行われるレースで一番速いのは「F1」であるが、
これは世界で一番速いレースであって、
現時点では日本人は参加していない。
何年か前の記録では富士スピードウェーを1分10秒台後半で走った。

 

日本国内だけで行われているレースでは、
日本最速の「スーパーフォーミュラ」。
富士スピードウェーを1分22秒で走ると中山雄一選手が言っていた。

 

次に速いのがスーパーGTで、
GT500クラスが1分30秒台そこそこで走り、
GT300クラスは1分30秒台の後半から40秒くらいで走る。

では、昨日のIPSレースでは、中山選手が1分42秒~44秒。
我が畠中選手は、ちゃんと気合が入れば1分46秒で走る。

 

それぞれのカテゴリーのレースドライバーは、
そこで一番であっても、
もっと速い上のカテゴリーに行ったら、
自分は、そこでもすぐに必ず勝てるとは思っていない。

 

カテゴリーが変わればそこは違う世界であって、そう簡単には勝てない。
上のもっと速いカテゴリーに行って、
下のカテゴリーでは知ることが出来なかったことを、
上のカテゴリーのレースで走って、知り、
下のカテゴリーでは学習出来ないことを、上に行って学習する。
いつも、「上には上がある。」ことを、思い知らされながら、
自分を鍛え、素直に学習して、力をつけて、
はじめてその上のカテゴリーで勝てるようになる。

 

しかし「上には上がある。」ことを忘れて、
低いレベルで「俺が一番」と勘違いしている者は、
負けると「車のせい」にする。
同じ性能の車さえあれば、自分は必ず勝てると言い、
今以上に学習することも、自分を鍛えることもしない。
ある意味、
「解かってしまった症候群」にも似ている。

 

それを思い知らされるのが、IPSレースかもしれない。
そういう意味では、
この言い訳の効かないイコールコンディションでのレースは、
「解かってしまった症候群」の人には、恐ろしいレースなのかもしれない。

 

今、日本で最も速いかもしれない若手の二人
IPSレースで、劇的なデッドヒートを繰り広げて、
残念ながら百分の1秒差で2位になった中山雄一選手。

 

 

IPSレースプロクラスで見事優勝した平川亮選手。
スーパー耐久レースでは#37 KeePer IPSで中山選手と共に走ってくれている。

 

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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