谷 好通コラム

2012年08月26日(日曜日)

【前文】45口径と9mmパラベラム。銃弾の話です。

アメリカ軍は二十数年前まで、
45口径の45ACP.という弾丸を使うコルトA1911という拳銃を、
陸・海・空・海兵隊の制式銃としていました。
A1911の名のとおり1911年に制式として採用され
それからずっと、若干の改善をうけながら使われ続けて来ました。
45口径の弾丸そのものは、
1901年に初めて作られたもので、一世紀以上に渡って使われています。
拳銃や銃弾の類の兵器は構造が簡単なので、
傑作が作られれば100年以上に渡って使われるのです。

 

対して、欧州の国々では、
9mmパラベラム(又は9mmルガーとも言う)という銃弾を使った
最初ベルギーのブローニングHPという拳銃から始まり、
過去にはドイツのルガーP08、P38など数多くの拳銃で使われてきました。
欧州は、国によって自立心が強いので、
それぞれの国が自作を造って競います。何十種類とあります。
しかし銃弾は100年近くも前に造られた9mmを同じように使っています。

 

今では”アメリカを含む”、ほとんどの国の制式銃の銃弾として使われています。

 

45口径の銃弾と9mmの銃弾は好敵手でしたが、
最終的に”9mm”の銃弾が、軍用銃の世界を制したのです。

 

45口径とはアメリカの計測単位インチで表されたもので、
銃弾の直径が45/100インチという意味であり、
ミリで言えば、0.45インチ=約11.43mmという計算になります。
銃弾の直径が11.43mmとは、
直径9mmの弾丸とほんの少しの違いのように思えますが、
その直径と体積(=重さ)は、
それぞれの”三乗”の関係になりますから、
45口径と9mmの体積は、1,493と729の関係になり、
45口径、つまり11.43mmの弾丸は、
9mm弾丸に比べて約2倍の体積と、
約2倍の重さを持っていることになります。

 

大昔のアメリカの軍隊は38口径の銃弾を使っていました。
ところが、フィリピンの地を侵攻中、
もともとフィリピンに住んでいた人たち(原住民という言葉を使いたくない)は、
攻めてきたアメリカ軍に勇猛果敢に戦い、
拳銃で撃たれてもなお、アメリカ軍兵士に襲いかかってきたのです。
38口径といっても、
ミリ計算すれば9.31mmであり決して弱い銃弾ではありません。
それでも9mmパラベラム弾より薬きょうの火薬は少ないので、
弾の初速、貫通力は弱いものでした。
日本を含め多くの国の警察では、今でも38口径弾を制式としています。
しかし、
フィリピンにもともと住んでいた人達は、
先祖から伝わってきた土地と、
大切な家族と文化を奪われることに強く抵抗した。
勇猛な男達は、38口径弾が命中しても、
必死でアメリカ軍兵士を襲ったのでした。

 

これに恐れをなしたアメリカ軍兵士は、
もっと強力な銃弾を求め、
45口径弾を撃つA1911を制式銃としました。(通称:ガハメントと呼ばれる)

 

45口径弾は38口径弾の約2倍の重さの弾丸を持っていて
弾丸を打ち出す薬きょうの火薬の量も多かったので、
これが体に当たると、
重い45口径の弾丸はつぶれ、
大きく体の中で広がり、内臓を破壊して体の中に残りました。

 

さすがの勇猛なフィリピンの戦士たちも45口径弾が命中すると、
その場に倒れてしまったといいます。

 

わざわざ弾丸がつぶれやすくするために弾丸の頭を平らにしたり、
弾丸に切れ目を入れて殺傷能力を高めた
ダムダム弾と呼ばれる残酷な弾までがあります。
これは9mm弾にもあります。
ちなみに、このダムダム弾は残酷だとして、
ジュネーブ条約か何かで戦闘に使われる事を禁止されています。

 

45口径弾とは、人を止める為の銃弾、
人を一撃で殺す為の銃弾と言っていいでしょう。
アメリカではこの力を「ストッピングパワー」と言い、
欧州をはじめ多くの国が9mmパラベラム弾を採用してきたのに、
アメリカだけ、長い間45口径にこだわってきました。

 

しかし、世界の趨勢がなぜ9mm銃弾だったのか、
こだわってきたアメリカまで、なぜ9mmパラベラム弾に変えたのか。

 

9mmパラベラム弾は、
弾丸の重さに比して薬きょうの火薬が多く、
初速が速くて、弾道に狂いが少なく、風の影響も受けにくい銃弾です。
もともと貫通力が大きな銃弾で、
銃弾の頭を硬い金属で覆い、貫通力を高めた銃弾は
物陰に隠れても、遮蔽物を貫通しやすい特性を持っています。

 

ということは、人に命中しても、
体の中で広がることもなく、貫通しやすい銃弾であるともいえます。
銃弾に命中した場合、
弾丸が広がって体の中に残るより、
貫通した傷のほうがはるかに人間にとってダメージが小さいと言います。
もちろん9mm弾も大きなパワーを持った銃弾であり、
容易に致命傷を与える銃弾であり、人を殺す銃弾はありますが、
45口径に比べると、9mmパラベラムは、人を殺しにくい銃弾だといえます。
だからといって、9mmが45口径よりも人道的であるなどというつもりは
まったくありません。そんなバカな結論ではありません。

 

世界の多くの国、特に西側の国々で9mm弾が普及したのには
もっと別の理由があります。
たとえば、9mmパラベラム弾のほうが体積が小さいので、
拳銃に装てんできる弾数が多くなる事です。
45口径弾のコルト45などは、
弾丸を詰める弾層に一列に7発ほどの弾を入れるのが精一杯。
それに比べて、
9mmパラベラム弾を使うベレッタ、SIGザウエル、H&K、グロックなど
数々の拳銃は、弾層に互い違いの2列に10~12発の弾を一度に入れられます。
つまり45口径は多くが7連発であるのに対して
9mmは多くが12連発だということです。

 

加えて、
重さが半分の9mmは、兵士が持って歩く携行弾数も多くなる事。
1発当たりの材料も少なくすむので、コストが安く済むこと等々、
9mm弾が45口径弾に比して軍用的に優れている要素はたくさんあります。

 

しかし、決定的な違いは、
45口径が人を殺しやすく
(比較ではあるが)9mmが人を殺しにくいことです。

 

ここは人道的とかそういう意味ではなく、
あくまでも戦術的、戦闘的に、
敵の兵士は殺さないほうが、味方にとって有利であるということです。
敵の兵士を殺してしまえば、
敵の兵士は一人減るだけです。
しかし、
殺さず、弾が貫通して大きく負傷させれば、
それを助けるための兵士、運ぶための兵士、治療・看病する兵士など
多くの人力が必要となり、
負傷したことによって戦争に参加できなくなった兵士に加えて、
複数の兵士がこの負傷兵に手を取られて。戦闘に加われなくなります。
敵の兵士の数が、殺すよりも、負傷させるほうが多く減るのです。
それだけ敵の兵力が大きくそがれるのです。

 

つまり、敵兵は殺すより、大きく負傷させたほうが、
純粋に戦術的、戦闘的に味方にとって有利であるということなのです。

 

だから、あれほどストッピングパワーにこだわっていたアメリカ軍も、
9mm弾を使った銃のほうが、
論理的かつ実践的に有利であると認めざるを得なかったということです。

 

何かの本でそう書いてあって、
私はものすごく感心し、納得しました。
戦争は、何がどうであっても非人間的であり非論理的なものです。
だからこそ、
相手を憎んで起きるものではないし、
だから殺さなければならない理由は何もありません。
戦争の目的は、殺すことではなく勝つことです。

 

戦争とは権力者どうしの
エゴの論理から発生した軋轢からしか始まらないものと、
私は思っています。
だから、実際の前線で戦う者たちは、
相手を憎くて、感情として殺したいから戦っているのでなく、
それぞれの何らかの理由で戦わざるを得ないから戦っているだけなので、
殺さなくても、怪我をさせたほうが、戦術的に有利ならば、
9mm弾を選ぶのが当然となったのです。

 

私が読んだ本には、
45口径と9mmの戦術的な意味がクールに書いてあっただけでした。

 

これを読んで、
これは平和な仕事にも
同様に言えることも多いなと思いました。

 

しかし、すでにかなりの長文になっているので、
そのことについては、明日、書こうと思います。
ここから後の話が、本当に書きたかったことで、
ここまでは【前文】でしかありません。

 

明日、書くの話が【本文】です。

 

45ACP

 

 

9mmパラベラム弾

 

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    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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