谷 好通コラム

2012年07月21日(土曜日)

断固として無血開城を阻止したのか

高速道路というものは、何十年先の交通量までを想定して計画するそうだ。
だから、どんどん自動車が増えている時代に、
日本国中を網羅する高速道路が計画され、現在も作り続けられている。
しかし、少子化が進み、
どんなに一人一台時代と言っても
日本全体の自動車保有台数は完全に頭打ちになっている。
何十年も前に造られた通行量予測などはもう何の根拠もない。
もっと高速道路が出来れば、もっと早く目的地に着けて便利かもしれないが、
日本はすでに、
収入が支出の半分しかなく、
年収の10倍に余る借金を背負った深刻な借金生活で、
もっと便利になりたいなどと贅沢を言えるような家計の所帯ではないのに。

 

高速道路を造り続けないと、
公共投資が減って景気が悪くなると言うが、
どうせお金を使うのならば、
そのお金がほとんど人件費に使われるような事業に使ったらどうだろうか。
高速道路を作っても、
どんな公共の設備、建物を造っても、
その多くの部分が資材費などに使われ、直接的には人間に戻ってこない。

 

公共事業で使われる人件費は、国民一人一人に循環して、
消費者の消費能力と意欲を直接的に支えるが、
人件費以外のたとえば資材費、土地取得費用、つまり物に使われる費用は、
少しは、それを調達、輸送するためなどの人件費にも使われるが、
その多くは、資材、土地などの物の所有者の所得に集中する。
土地という資本も含めて、
多くの所得は、働く人ではなく一部の”物を所有している人”に集まる。

 

 

もう一つの要素。

 

国家の経営が、民間会社の経営と決定的に違うのは、
利益を確保することをしないことだろう。
民間会社の経営ならば、利益を確保しなければ次の投資も出来ないので、
会社の発展と、社員の幸せを求めるならば
利益は絶対に確保しなければならない。
赤字経営を続け、赤字の累積が自己資本を越せば
債務超過という破産に直結するような経営危機に陥る。
債務超過状態になっても、赤字を解消しようともせず、
収入の二倍もの支出を平然と続けるような会社は、
再建の可能性は無いとして、早々に金融機関から資金供給を打ち切られて、
間違いなく倒産する。
ユーロ圏の金融危機の発祥地ギリシャのようなものだ。

 

日本の場合、GDPに対する国家債務の比率がとんでもなく高い国だが、
その債務、つまり借金を、国債という形で、
国内の金融機関、つまり国民の預貯金から借金しているので、
つまり国内の身内から借金しているので大丈夫だと言われている。
しかし、国と言えば、
国民一人一人とは別にあるもののように思えるが、
実は、国民一人一人そのものの”総称”であって、別人格ではない。
国内の金融機関のお金とは、国民一人一人別々の人の貯金であって、
国民一人一人の貯金を、
国家という役所を通じて、
選挙の投票という国民一人一人の付託を負った代表の要求に従って、
国民一人一人から徴収した税金(収入)に、
ほぼ同じ金額を借りるという形で二倍にして使ってしまうのが、
今の国家予算(支出)の使い方だ。

 

言い方を換えると、
国家の負債と国民の貯金(資産)がほぼ同額になったということは、
国民が、選挙という方法で選んだ政治家という人を通じて、
道路とか公共施設とか、色々なサービスや、補助金という形で、
国民一人一人の貯金、資産を、
ほぼ全部使ってしまった状態と言えるのではないか。
大きな意味で言えば国民全体の債務超過。

 

一方、国家予算が公共事業に偏重する構造が、
所得の偏りを発生するとしたら、
その資産の多くは、
金融機関への貯金、保険、債券として存在しているのだろう。
その貯金などを、国家という名の国民全体が、
とうとう使い果たしてしまったとしたら、
偏重して資産を所有している人たちは、
さぞや不安になるのではないだろうか。

 

円高に苦しんだ生産工場が海外に拠点を移していたり、
円高に乗じて、海外の会社をM&Aで買ったり、
実質的に国内の資産が国外に流出しているとしたら、
そんなことに不吉なものを感じることが勘ぐり過ぎなのか。

 

国家財政の危機的状況の根幹の問題は、
物を作る形での公共事業が、景気の喚起に結びつかないことと、
国民一人一人の総体である国家のバランスシートが、
借金が増え続けている方向性だけでなく、
その借金の元である国民の貯金、資産が海外に流出する不安という
加速的に悪化する可能性の問題ではないだろうか。

 

自民から民主への政権交代の時の
民主の「物から人へ」「物を造る公共事業を仕分け、減らす」政策は、
国家財政の危機、すなわち国民生活の危機そのものに切り込む
江戸時代から明治への変換期、江戸城の無血開城以来の
知的かつ革命的なものだと、喝采を送った。

 

それが、どこがどうなったのか、国民一人一人は、
その革命によって自分にも多くはないが損失が発生することを煽られ、
混沌とした政局にもつれさせてしまった。
強大な官僚機構の壁は、はるかに想像を超えた頭脳をもってして、
無血開城を断固として許さなかったのかもしれない。

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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