谷 好通コラム

2011年12月22日(木曜日)

2938.面白い話を聞きました。

何十年か前の昔の話。
インスタントコーヒーがアメリカで初めて売り出された時、
そのインスタントコーヒーは全く売れなかったそうだ。

 

コーヒーという飲み物は、
焙煎したコーヒー豆を買ってきて挽くか、
あるいはもう挽いてある物を買ってきて、
それをドリップしたりして手間を掛けて入れるものである。
インスタントコーヒーのように、
コーヒーカップに”粉”を入れてお湯を注いで出来上がりなんて物は、
怠け者の奥さんが買う物だという意識が根強かったのが、売れない原因だった。

 

 

アメリカでも昔は、
「妻とは献身的であるべき」いう価値観があったのかどうか知らないが、
インスタントコーヒーとは、
怠惰な妻の象徴みたいな目で見られたようだ。

 

インスタントコーヒーのメーカーAは、
そんな意識が邪魔していて、この商品が売れないということを
消費者の意識調査を行なった結果で知った。

 

メーカーAは、広告代理店のマーケッターと共に考えた。

 

そして作り上げたのが、
①「インスタントコーヒーが挽き豆から入れたコーヒーよりも美味しい」
というキャペーンでもなく、

 

②「インスタントコーヒーを使うと、奥様が楽になる。」
というキャンペーンでもない。

 

採用したのは、
③「奥様がインスタントコーヒーを使ってコーヒーを入れると、
時間に余裕が出来て、家族みんなで過ごす楽しい時間が増える。」
そんなキャンペーンであった。

 

このキャンペーンでは、
「朝、家族みんなで、楽しそうに、食事をしている様子のイメージ写真」が添えられ、
「あなたの家庭にもこんな時間があったら素敵ですよね。」と語る。

 

このキャンペーンが大当たりして、
一気に全米にインスタントコーヒーが普及したのだそうだ。

 

 

消費者の心理としては、
①「インスタントコーヒーが挽き豆から入れたコーヒーよりも美味しい」では、
どっちのコーヒーが美味しいかはその人の好みなので、
こっちのほうが美味しいと決め付ける広告では拒否感を持っただろう。

 

ましてや、
②「インスタントコーヒーを使うと、奥様が楽になる。」では、
まさしく、「これを買う人は楽をしたい奥様」と宣伝しているようなものだ。

 

そう考えると。
③「奥様がインスタントコーヒーを使ってコーヒーを入れると、
時間に余裕が出来て、朝、家族みんなで過ごす楽しい時間が増える。」
これは、
インスタントコーヒーを買う目的が、
「朝、家族みんなで過ごす楽しい時間を増やすため」という正当性がある。

 

奥様が怠けるためでもなく、
こっちのほうが美味しいからという不確定なものでもなく、
家族みんなが仲良く楽しくしていたいという
すべての家庭が持っている心情と欲求に訴えたキャンペーンであった。

 

 

みんな誰でも、
みんなと一緒に幸せになりたい。
みんながそう思っていることを信じて作ったキャンペーンが、
インスタントコーヒーを世の中に広めたことになる。

 

私はこの話を聞いて、
方法論としてではなく、
価値観として、すごくいいなあ、と思いました。

 

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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