谷 好通コラム

2009年04月21日(火曜日)

2189.買う側の動機が、売れる論理

 

商売をやっていると、
「売りたい。」が先に立って、
「売り方」ばかりに気持ちが行き
その商品やサービスが、「買う側」の人、
つまり、お客様にとって「欲しいもの」であるかを忘れてしまうことがある。
それは本末転倒である。
商品は、店舗=売る側にとって「売りたいもの」である前に、
お客様=買う側にとって「欲しいもの」である必要がある。
店舗にとっては売れるかどうか。
買う側にとっては買うかどうか。
その決定権は、100%、買う側にあるのだから、
商品は、お客様にとって「欲しいもの」であることが何よりも優先して決定されるべきだ。

 

その上で、
「お客様が欲しい商品」をどう提供し、
どう伝えていくかを考えるべきであり、
答えは、すべてお客様の中にあり、お客様が訪れる店舗現場にある。

 

昨日、訪問した先で「ニトリ」の似鳥社長の話が書いてある雑誌を少しだけ読んだ。
3月30日号の「プレシデント」である。
そこには「接客なんてどちらでもいい。」とあった。
「お客様の目的は、お客様にとって欲しい“物”であって、“接客”ではない。
いかにお客様にとって魅力的な物が、魅力的に在って、
その買いたい物が、お客様にとって実際に“買える物”なのか。つまり安いか。
その目的のためには、接客のための人件費も、在庫のためのコストも、
お客様にとっては無駄でしかないから、お客様が喜ぶ安さのために省く。」

 

ニトリの店に行くと、
ものすごく広いフロアに、厖大な商品が展示してあり、
種類もデザインも豊富で非常に魅力的だ。
しかし販売スタッフの数は極端に少なく、
何か質問であれば、スタッフのいる場所まで歩いて行って聞かねばならない。
商品を注文するにも売り場の端っこにあるカウンターに行って、事務的に注文する。
私も経験があるが、あまり、接客としては上等ではない。
しかも、注文したものは「何月何日の配送になります。」と、
一週間とか10日とかかなり先の配送になることを、当然のように告げられる。
売るための人件費コストを最小限にし、
在庫を店舗に持たない(店舗にあるのはすべて展示品)ことで在庫コストを省く。
そのコストを省くことで商品の安さに実現する。

 

お客様にとっての目的である「魅力的な商品を、買える値段で買う。」を実現するために
魅力的な商品を出来るだけ豊富に展示し、
しかもお客様が商品を選ぶこと自体が楽しくなるような魅力的な展示にしてある。
店内の雰囲気も清潔感があって魅力的だ。
その上で、お客様の質問に答える店員の代わりにインフォメーションが充実している。
それでも質問があれば、お客様が自分で聞きに行く。
言ってみれば、
お客様が出来ることは自分でするセルフの考え方と同じだ。

 

また、注文した商品をすぐで手に入れる利便性を排除して、
注文してから少し待たなければならない不便さをお客様に与えることによって、
在庫コストを排除している。

 

売るための人件費を省き、商品がすぐ手に入る利便性を捨てて、在庫コストを排除する。
そのコストを商品の安さに転嫁する。
その方がお客様の取っての目的である「魅力的な商品を買える目段で買う。」を、
合理的に実現している仕組みだ。

 

なるほどと思った。
少なくとも家具を販売するビジネスモデルとしては
1人勝ちしているニトリの手法が正解なのであろう。
しかし、サービス業である洗車・コーティングのビジネスに
この手法がそのまま当てはまるとは思わないし、
対面販売である私たちのビジネスにおいて、接客を“どうでもいい”とも思っていない。

 

しかしこのニトリの家具販売においては、
店舗の在り方、販売手法、経営手法が、
消費者のニーズにぴったり当てはまっていることは見事というしかない。
売る側の論理をきっぱりと捨てて、
買う側の論理に徹しきった店舗が、
買う側である消費者の支持を得ている事実がここにある。

 

考えるべきは売る側がいかに「売るか」ではなく、消費者がいかに「買うか」である。
少なくとも小売においての解答はすべて「買う側」にある。
その意味では、洗車、コーティングビジネスにおいても全く同じだろう。
「買う側の動機」が「売れる論理」に一致する。

 

 

昨日、埼玉で見た「チラシ」は見事であった。
お客様が必要としている商品の情報が非常に見やすく表現されている。
自分の車には、何が必要で、いくら必要なのか、
そこでその商品を買うことによって、何がメリットであるか。
紙面に装飾もほとんどなく、オーバーなキャッチコピーがあるわけではない。
クドクドと美辞麗句を並べた説明文があるわけでもない。
お客様が必要としているであろう商品情報が、
非常に見やすく表示されている。

 

説明を聞くと、淡々と情報が表示されているだけの紙面のようで、
細かい気遣いがされていて、より見やすく、理解しやすくしてあるようだ。
このチラシで、その商品の前年同月の実績を何十軒合計で170%にしたそうだ。

 

チラシは、店舗の商品の案内には必要欠かさざるもので、
快洗隊においても多用している。
しかし、つい、チラシ自体のきれいさとかムード、あるいは文章に神経が行って、
「売りたい」がためのチラシになっていて、
本当にお客様が必要とする情報を載せた「買いたい」チラシになっていなかった。

 

ビジネスは、お客様の立場に立ち、
お客様の目で、お客様になりきって考えるべきと常々言っていた私は、
実は、自分自身が全く出来ていなかったことにショックをつけ、恥じている。

 

それを見せていただいた私が尊敬する人との約束で、
そのチラシ自体を公表することは出来ないが、
学んだことを活かした新しい洗車とコーティングのチラシを作って、
その時には皆さんにも、ぜひお見せしたい。

 

また、その時学んだこと。
1.チラシはまずポスティングで配ること。
それも一万枚やそこらでは話にならない。
五万枚も配って初めてポスティングをやったことになる。
新聞折込みなんかで楽をしていては、絶対に実績など上がる訳がない。

 

2.その商品に対して、
お客様が「欲しい時期」に“人”も“金”も最大限に投入するべし、
多くの消費者が、その商品が必要とせず、欲しくない時期には、
お客様の方が欲しくないのだから、
売る側が、売れない時期をどうカバーするかという目的でチラシなどを打っても、
買う側の方が「買いたくない」と言っているわけだから、何をやっても売れるわけがない。
年間に使えるお金は決まっているのだから、
買う側が「買いたい。」と思っている時期にそれを集中し、
最大の効果を上げるべきだ。人もその時期に集中すべきだ。
誰でも売れる「買う側が買いたい時期」に、
人・物・金を集中して、圧倒的に効果を上げて、圧倒的な実績を上げるべきだ。

 

「売れる、売れない」ではなく、
「買う、買わない」を決める「買う側の論理」に、
売る側の人間が合わせることが出来た時に「売れる。」

 

あまりに明快な論理に、しばらく絶句し、
自分自身の甘さを突きつけられ、少々、私は自信をなくしてしまった。

 

しかし、いつまでもショボンとしているわけにも行かない。
また、原点に戻ろう。

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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