谷 好通コラム

2009年03月11日(水曜日)

2156.事業のスタート地点の違い

このところ、多くの中小企業の若き経営者、
それも事業を親から継承した経営者、
いわゆる二世経営者について考えさせられることが何度かあった。
思いつきではあるが、
多くの反論、反発を覚悟の上で私の二世経営者感と、思っていることを書いてみたい。

 

会社経営の世襲はメリット、デメリットの両方があると、
以前、何かで読んだことがある。
メリットは、
世襲での後継者が社内のコンセンサスをもっとも得やすいということだ。
創業者の下にたくさんの社員さんや幹部がいて、
それぞれが創業者の指揮の元、一生懸命仕事をし、出世を競っているとしたら、
経営者の代替わりで、
創業者が同族外の幹部の誰か1人を後継者とした場合、
後継から外れた競合幹部は、
がっかりしてモチベーションも失せるだろうし、
かつての競合者であった新しい後継者をトップとして仕事が出来るか、
難しい問題があるだろう。
その点、創業家の誰かが後継者になった場合、
創業家の意志として、幹部たちは変わらぬ忠義心を自然に持ち続けられる。
銀行関係もそのほうが担保の継承の問題や、保証の問題も発生しにくく歓迎する。
ということらしい。

 

デメリットは、
世襲で後継者となった創業家の誰かが、
経営者としての素質と能力を持っているかどうか。
その一点に尽きるだろう。

 

仕事の「能力」は努力で得られる。
半端な努力ではないと思うが、
いずれにしても「能力」は努力なしでは得られないが、
努力をすれば得られるものだ。

 

しかし、素質という点では難しいことが多い。
創業者というものは概して独特のリーターシップを持っている人が多く、
こればかりは努力で得られるものではなく、持って生まれた素質が大きく影響する。
特に強いカリスマ性を持った創業者を親に持った息子は、
後継者となった後も何かにつけて親と比べられ、
先代の真似をしてもかえって陳腐にとられたり、
先代と違う自分独自のリーダーシップを持とうとすれば、
先代から仕えてきた人から反発を買ったり、
「じゃあ、俺はどうすればいいんだ。」と悩むことも多いらしい。

 

素質はその人の個性であり、持って生まれたものなので
努力では何ともならないこともある。
どんなに努力しても先代と同じにはならないし、なれない。
どんなに努力しても先代とは違うのだ。
ならば、
違うという前提で、自分なりのリーダーシップを発揮するしかない。

 

その時に問題なのは、
何を基準とした価値観を持つか、だと思う。
経営学は方法論なので、学校で学び、親から学ぶことが出来るが、
その方法をどう使うのかが、その人が持っている独自の価値観なのではないか。

 

二世経営者の多くの場合、
「先代から継承した時点の事業」を「基準」として、
そこからどうするのか、拡大するのか、縮小するのか、充実するのか、
そういう事を基準にした価値観になっている場合が多いように思えるが、
先代から継承した状態を基準にすること、そのこと自体が意味のないのだと思う。

 

だいいち、先代が経営していた時代と、
継承した後の時代は明らかに変わってくるのだから、
同じことをやってもうまく行くわけがない。
新しい時代に、同じようことを先代がやってもうまく行きっこないのだ。

 

親が何をやったのかは「学ぶ」対象ではあるが、
先代がやってきたことを「基準」にしてはいけないのではないだろうか。

 

基準にすべきは、
「お客様」の気持ちであり、ニーズであり、欲求であり、
お客様が持っている価値観。
あるいは、「世の中」の求めている欲求や必要性ではないだろうか。
そこを基準にした自分の価値観を構築し、
それをどう実現すべきか、どう実現出来るかで、
その会社の方向を決めるべきなのだと思う。創業者がそうであったように。

 

創業者から継承したものは、
それ以降の新しい経営者のスタート地点でしかない。

 

継承した会社が背負っているものは、
プラスもあれば、マイナスもあって当然であり、
それがトータルしてプラスなのかマイナスなのかは、
銭勘定の上で考えるべきではなく、
新しい経営者自らが持っている価値観としてやるべき事に
スタート地点として相応しいのかを考えるべきではないか。

 

先代がやってきたことが、
自分の新しいスタート地点として、
その事業が自分の価値観に合致すれば、
それがたとえ金銭的にはマイナスであっても、
すでにお客様があり、
能力を持った従業員さんがいて、
銀行さん、仕入先などその会社を支える存在がある訳だから、
よろこんで継承し、自らが実現すべきと考えたビジョンに進むべきだと思う。

 

逆に、自分の価値観に照らして間違っていることしか出来ないのならば、
金銭的に大きな価値を持つ事業であろうと、継承すべきではないのでないか。
たとえ、金銭的財産としてプラスの事業を継承したとしても、
自分の価値観と違った事業ならば、
その方向を転換しない限り、
理念のない形だけのリーダーシップしか発揮できないだろうから、
その事業を構成するあらゆる人にとっても、自分自身にとっても不幸なことではないか。
もちろんお客様にとっても同じでことある。

 

だから、先代から継承した事業が実は赤字であって、
貸借を差し引きしたらマイナスであり、親の借金を負う形になったとしても
その事業が社会的な意義があり、自分の価値観に合致するものならば、
その事業を支えてきた人達のためにも継承すべきであると思うし、
自身の能力を努力によって高め、
時代を見る眼を鋭く養い、事業を高めればいいと思う。

 

先代の残した事業を継承するのは損得勘定ではなく、
自分自身の価値観をもってして実現すべきことが事業の継承で実現し得るものならば、
継承すべきだと思い、
その逆ならば、どんなに財産的な価値があろうと
みんなの幸せのために継承すべきではないと思う。

 

その上で継承した事業は、
先代から継承した事業としてではなく、自らの意思で選択した事業として、
自らが全責任をもつ、自らの事業として、
事業が実現すべきビジョンを、事業を構成する人すべてに示した上で、
自ら独自のリーダーシップを発揮して邁進すべきではないか。

 

先代のやってきたこと、作り上げたその時の事業の姿に、
新しいリーダーとして束縛を受けるべきではないし、
自らのビジョンと実行力の無さとの言い訳に、その束縛を言うのは良くない。

 

継承は、新しいリーダーの新しいスタートであって、継続ではない。
事業を継承した者は、
自分の成すべきと考えた事を、
先代がすでに成した事と比べるのは無用である。
そしてスタート地点がどんなレベルにあるのかも関係ない。
これから成すべき、自らが目指すべきビジョンのレベルと意味だけを考えればいい。

 

だから、
創業者も二代目も、三代目も、
事業に対する姿勢とやるべきことは同じであって、
違うのはスタート地点が異なる条件であるだけなのではないか。

 

創業者でも、はじめから豊かな資産、土地、現金を持って始める者もいれば、
正に裸一貫で何の後ろ盾もなく始める者もいる。
創業者でも人それぞれでスタート地点の条件に違いがあるのと同じように
二代目、三代目もスタート地点の条件が違うだけなのではないか。
肝心なのは
事業を進める者として、
世の中に認めてもらえるような自らのビジョンを持っているか、
それが多くの人の支持を得られるものなのか、
そして経営者としてリーダーシップを発揮し、
そのビジョンを実現するための実現力を持っているか。
それらの肝心な要素に比べれば、スタート地点がどこにあったかなどは無意味に近い。

 

まったくのゼロ資本の裸一貫でこの事業を始めた私は、
事業を継承した二世をうらやましいと思ったこともなければ、
逆に気の毒に思ったこともない。
スタート地点の条件が違っただけで
事業を進めることに、何ら変わりがない人として受け取っている。

 

実際に事業をやっている人はみんなそう思っていると、思いますね。

 

 

※今日は広島でのキーパーPROSHOP研修会。それが終わって広島のホテルにて。

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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