谷 好通コラム

2008年09月16日(火曜日)

2017.顔のないコミュニケーション

「旅の恥はかき捨て」という言葉がある。
旅をすることが、一生の内に何度もない人がほとんどの、
すこし昔のこと。
人々は村とか町内という小さい社会で生活をしていた。
だから、誰かが、犯罪とかマナー違反とか、恥知らずなことをすると
すぐ話が近所に広がって、
自分が恥をかき、その小さな社会での生活がしにくくなるばかりでなく、
家族までに肩身の狭い思いをさせることになった。
だから、世間に対して恥ずかしいことをしないよう、
みんなお互いに戒め合っていた。

 

ところがそれが、
旅に出ると、誰も知らない人ばかりで
自分の事を知っている人もいないので、
それまでの窮屈で清く正しい生活でたまっていた「出してはならない欲望」が、
いっぺんに噴出して、
家庭において子供に尊敬され、世間においても認められた人格者が、
信じられないような破廉恥な行為に走ってしまうことがあった。
それを「旅の恥はかき捨て」という。
旅に出た時、
マナーも良識も何もなくなる人が少なからずいる。

 

旅に出るとそれをとがめる人もいず、
その行為を知られることもないし、
だいいち、自分を知っている人が回りにいないので、
つまり社会を構成しお互いに戒めあう束縛がなくなるので、
人は破廉恥になれるのかもしれない。

 

自分が誰であるかを、
みんなが知っている中では出来ないことも、
自分を知っている人がいない所では破廉恥なことでも出来る。
恥知らずのことをやっても、それに対するしっぺ返しがないからだ。
一時的に因果応報の法則から開放されるわけだ。

 

 

そして現代。
インターネット・携帯メールが普及して、
これと同じようなことが、広範に、かつ日常の中で起こっている。
たくさんの人が、
いつも常に「旅の恥はかき捨て」状態になっているのではないか。

 

インターネット・携帯メールは、
相手に、自分の顔・存在が見えないコミュニケーションであることが多く、
匿名のコミュニケーションであると言われている。
「ハンドルネーム」という架空の名前でネット上に登場し、
自分の存在を明らかにしないまま、
知らない相手に向かってコミュニケーションする。
昔で言うところの「旅に出た」状態だ。

 

お互いに相手が判らないので、
「信用しない」関係のまま、お互いのためのことなど思わず、
自分の為だけに、自分の欲望や欲求を制限なく出し合う。
顔のないコミュニケーションだ。
「旅の恥はかき捨て」と同じである。
自分の顔も、存在も見えないまま、
欲望を交換するコミュニケーションは、
相手が傷付くことも相手が損をすることも、
自分にはまったくしっぺ返しが来ないので、平気で行われる。

 

正体を表さないコミュニケーションは
往々にして自分勝手な、恥を知らないコミュニケーションになりがちだ。

 

たとえば、
私たちの会社ではWebを使った人の募集を定期的に行うが、
大体、全国から50~70名ほどの応募がある。
まず、書類選考した上で、
面接の日時を決めるための連絡を取るためにEメールを送ったり、
相手の携帯に電話をする。
しかし、Eメールを送っても返信がない人。
携帯電話に電話をして、出ない場合は留守電を入れても電話を返してこない人。
特に面接の日時をセットしても、
だんまりのまま来ない人がものすごく増えた。
面接をすっぽかす人が増えたのは
ここ何年かの現象だ。
特に関東でのひどさは半端ではない。
そして、来ない人の携帯にこちらから電話をしても、
必ず不通になっていて、連絡が付かないのが定番だ。

 

もちろん面接に来てくれて真剣に話を聞いて、
こちらも話をしてお互いが良ければ採用に到って、
今でもどんどん仲間が増えているので、求人に困っているというわけではないが、
「面接をすっぽかす人」が増えたことに少なからず驚いている。

 

インターネット上での応募は、
相手の顔がまったく見えないまま、
相手が消えていってしまう人が多いのが特徴だ。
そして「連絡が付かない。」つまり「だんまり」だ。

 

「すっぽかし」と「だんまり」は、
正に「顔のないコミュニケーション」の特徴なのではないか。

 

ある人達においては、日常生活までが、
「旅の恥はかき捨て」状態になってきているのかと思うと恐ろしい気がする。

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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