谷 好通コラム

2007年12月16日(日曜日)

1799.自らのDNAに従って

これを書いているのは札幌からの飛行機の中。

 

今日の昼から札幌での仕事が思いのほか早く終わってしまったので、
ちょっとだけ好きな場所に行くことにした。

 

札幌営業所から千歳空港に行くには、
札樽道(札幌⇔小樽)の伏古ICから千歳ICまで高速で行けば20分ちょっと。
しかし今日は時間があったので、
東区にある営業所から南区の石山を通って支笏湖に抜ける山道を行った。
山道と言ってもよく整備された道で雪があってもまったく心配なく、
雪で真っ白になった山々を見ながら抜けていくのは実に気持ちがいいのだ。

 

約1時間かかって支笏湖に到着、
もう何度も来ている所であるが見飽きない景色である。

 

支笏湖から千歳に向かう道は平坦でまっすぐの道、
両側にダケカンバの林が続き、特に、雪で林と道が真っ白になっていると
スカーッと、何とも言えない爽快さがある。

 

好きなコースを通って、
普段なら20数分で行ける道程が1時間以上も掛かったわけだが、
まだ飛行機の出発時刻までに間に合うには1時間以上余っている。
そこで、
もう一つ寄り道をして、
千歳市内の千歳川の河畔にある「サケのふるさと館」に行くことにした。
その中には立派な展示がいくつもあるが、
私の目当ては「千歳川水中観察室」
千歳川の中を大きなガラス越しに、生の自然の姿そのままを見ることが出来る。

 

十年以上前に札幌に出張で来はじめたいつの頃からかここに通い、
もう何十回も来ている。
最近の出張は、いつもスケジュールをびっちり詰め込んでいるので
ここに来る事は少なくなっていて、
今日来たのはひょっとすると1年ぶりかもしれない。

 

今日もいつものように水中観察室にほぼ一直線に行く。
1m×1.3mぐらいのガラス張りの観察窓が7つ並んでいる。
その観察窓から大きな魚影が見えた。
「サケだ。」
海から遡上してきた大きなサケがいっぱい見える。
「ウワ~~~サケだ!! サケだ! いっぱいいるぞ。すっげ~~!」
つい大きな声が出てしまう。
私は、ここに数多く通っているくせに、
まだ秋の遡上のサケの群れをここで見たことがない。
(中標津で一度、川の橋の上から見たことがあるが)

 

今までここ水中観察室で見たことがあるのは、
エゾウグイ、ウグイ、タナゴ、サクラマス、小さなイワナ、そしてサケの稚魚。
カワヤツメも一度見たことがあり他にもいろいろあるが、
水中から見た大きなサケと言えば、
春、サケの稚魚が孵化して海に下る準備をしている頃、
産卵した場所のかたわらに死んで、
もう分解が進み稚魚たちのエサとなろうとしていた屍だけだ。

 

サケの遡上シーズンは秋としたもので、
もう12月も中旬の今日では、
サケの群れなど観られるとは思っていなかった。
ラッキーだ。
思ってもいなかったラッキーはことさらに嬉しい。

 

千歳川で生まれ、海に出て、
何千キロ、何万キロの海を、何年もかかってめぐるうちに
情け容赦ない大自然の生存競争と、
幸運と不運との狭間での闘いにも勝ち抜いて、
たくましい大きな体に成長した猛者たちが、ふるさとである千歳川に帰って来た。
彼らを見ていて、信じられないような長い旅の果てに戻ってきた事を思うと、
目頭が熱くなってきてしまう。

 

子孫を残すために、DNAに仕組まれた本能に従って、
正確にふるさとの河にたどり着き、
川に入ってからはもうエサの何も採らないのだそうだ。
そして、
海水で育った皮膚が真水でやけどの様になっても
浅い川床で体をこすられボロボロになろうと、
ただそうするしかないように交配と産卵に命を掛ける。
子孫を作り出すために、種を保存するために、
ただ本能が命じるままに、
自分が卵を産むべき場所まで死に物狂いで突進し、
自分の生まれたところに何時間もかけて産卵場所の穴を掘って、
産卵する。
オスはオスで、自らの種を残そうと、
やはり本能の命じるままにメスの産卵場所にまで時分の身を運び、
他のオスとの戦いに最後の力を振り絞って、勝ち、
種を残すべく自分の精子を卵に受精させる。

 

それだけだ。
すべてがそれで終わって、あとはもう何もない。
自分たちが残した受精卵の生命力に任せ、力尽きてすべてが死ぬ。
そのあとあるとすれば、自分の骸が、自分の子孫たちのエサになるぐらいか。
何万キロ、何年もの長大な旅は、ここで完結する。

 

その姿は神々しいまでの輝き。
それを目の当たりに見て、感動しないわけがない。

 

 

私のDNAには何が書いてあるのだろうか。
人間が文明を持ち、文化の中で思考を重ねて、
私は、自分のDNAに何が書いてあったのか思い出せなくなっているのだろうか。

 

自分の本来在るべき姿をDNAに中に忠実に従い、
何万キロもの大海を巡り闘ってきたこの美しい勇者であるサケたちを見ていて、
ふと、私のDNAには何が書いてあるのだろうかと考え込んでしまった。

 

 

支笏湖の向こうの風死知山と樽前山

 

 

手を出すとまるでワンコのように寄ってくるサケがいて、びっくりした。

 

 

川の上にかかる橋から見る姿はずいぶん違う。

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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