「ピック病」という脳の前頭葉が萎縮する病気で、
真面目な人が万引きをする現象があると新聞に載っていた。
一時的に抑制が効かなく症状で、
本人は万引きをした事自体を憶えていない。
立場な仕事をしていて人格者であった人が、
突然、コンビニで、たかがインスタントラーメンを万引きをしたりと、
「まさか、そんな人が何故？」というような万引き事件が時々新聞に載る。
そのような万引きが、
病気による一つの症状ならば納得がいく。
みんな脳の病気で万引きをするとは想像だにしなかったことで、
今まで、何百人、何千人という立派な人格者が、
脳の病気が原因で、たった数百円の万引きの為に、
すべての社会的地位と尊厳と、家族を失っていった訳である。
これは、まさしく悲劇と言える。

私達には知らない事、分からない事が多い。

アルツファイマー病とは、
脳の萎縮によって
徐々に自分を忘れていく病気であるという。
自分を忘れていくとは、どのようなものなのであろうか。
想像がつかない。
自分が経験した事、知っている事を忘れていって、
ついには自分を忘れた時、
自分の意識はどうなっているのだろうか。
脳に病気を持つということは、それが自分にとってどんな体験になるのか、
解らないだけに、本当に怖い。

昨日は日帰りの福岡出張。
そう言うと、いかにも大変であるかのように聞こえるが、
実際は、何日もホテル住まいをして、家に帰らない事の方がうんとツライ。
これは実際にやったものでないと解らない。
私が昔ほど長期の出張をしなくなったのは、
ホテルに泊まって、寝ても、
体のどこかに残っている緊張が続く事に疲れてしまったからだろう。
多少無理な日程でも、家に帰りたい。
これは、なん年間も出張生活を続けたものにしか解らない。

私は左足が悪い。
おまけに大きなタコが出来ていて、歩くのがとても辛くなっている。
それを数年前に救ってくれたのが、この靴。
ドイツ製の矯正のための特別な靴で、安っぽい形だが一足３万４千円もする。
この靴と出会ってから私の人生は変わったと言ってもオーバーではない。
歩ける距離が５倍くらいになったのだ。
裸足で板の間なんかを歩くと、足が痛くてオーバーにビッコを引くが、
この靴を履けば、全く痛くない。
靴自体の形と、魔法のインソールのおかげだ。
私にとっては魔法の靴であり
格好が悪いくらいは平気である。

それでも、局所的に力と重量がかかるので
たいてい三ヶ月から四ヶ月で革がヘタり、靴底も部分的に片減りして、
使えなくなってしまうので、結局、この靴に年間１０万円以上も使ってしまう。
この靴は外見だけでは想像が全くつかない素晴らしい靴なのである。
これは、事情を知らないと全く解らない事である。

無料、つまりタダになることを“ロハになる”ということがある。
ロハの意味とは、考えた事もなかったが、
「只（ただ）」の一文字を上と下に分けて「ロハ」と読んで隠語としたという。
何気なく使っていても、知らない事はあるものだ。

みんなのことよりも、自分のことだけを考えることが出来る者がいたとしたら、
物騒なたとえだが、
戦争の真っ只中、目の前の敵と対峙し、
みんなで力を合わせ戦わなくては全滅してしまうような切羽詰った局面で、
「僕は戦争反対だから。」と言って一人でとっとと逃げて、
それが原因で防衛線の一角が崩れ、一挙に部隊が全滅したとしても、
彼は「自分に正直に行動しただけ。」とうそぶくことが出来るのだろう。

理解できない事があるものだ。
世の中理解できない事が多い。

すべてを理解しようと思うと、行き詰ってしまう。
分からないことの存在が、存在していると認めることしか出来ない。
理解できないからと言って存在そのものを認めないのは、間違っている。
理解できないものがあることを、まず認めた上で考えなくてはならない。
むずかしい事だが、そういうことなのだろう。