2004年12月15日(水曜日)
1077.企業・人・先行投資
経営者として痛感することは、
企業の成長にとって、“人”の育成と充実が一番大きな要素であること。
「企業は人なり」と言うが、
経営者としての経験を積めば積むほど、この言葉の意味の重さを実感する。
そして、同時に思うこと。
人件費はあまりにも高く、人材の育成とは、あまりにも大きな先行投資であること。
今、私たちの会社はとにかく人が欲しい。
事業を拡大するには、まず力のある人が必要である。
だから、色々な媒体を使って人を募集している。
新卒確保のための学校廻りもすれば、ハローワークにも登録してある。、
デューダとかの求人誌を使うこともあれば、地元のタウン誌も使う。
ここ何年かは、
インターネットを使っての募集もかなりやったが
最初の頃の爆発的な反応はない。それにめちゃくちゃ高い。
通常は一回の募集で、かなりの数の応募者があるが、
すべてを採用できるわけではない。
今までの経験によると、
一人の採用に必要な募集に関わる直接費用は30万円くらいかかる。
募集地に出かけたりする手間と費用、面接にかかる費用まで考えると、
一人採用するまでに50万円ぐらいはかかっているかもしれない。
まず、募集に関わる費用に500,000円/一人
次に人件費。
たとえば、
今、若いスタッフを雇用したとする。
この仕事には未経験の、
でも、将来いい働きをしてくれそうな予感がする例えば23歳の若者A。
仮想のこの若者Aの初任給が固定の分で総額200,000円であり、
これに残業などが付き、
総支給額240,000円であったとしよう。
この場合、総支給額から以下のものが差し引かれる。
健康保険が、10,660円
厚生年金が、17,654円
労働保険(労災・失対)、1,706円
介助保険、0円 (年齢が達していない)
所得税、8,250円
控除された後の支給額は、201,730円となり、
これがいわゆる「手取り」となるわけだ。
給料をもらう人はこれが自分の給料、自分の取り分と考えるわけだが、
会社の方から見るとちょっと違う。
健康保険についても、厚生年金、労働保険、介助保険についても、
会社は天引きした金額の“2倍の金額”を、国に払い込んでいるのだ。
所得税ももちろん国に払い込まれる。
だから実際、若者Aの給与としての費用は、
総支給金額+会社負担分の社会保険料(法定福利費用)となる。
240,000+10,660+17,654+1,706=“270,020円”
本人の手取りは、“201,730円”/月
会社の総負担額、“270,020円”/月
そして、賞与。
賞与にも所得税と、今は社会保険料がかかる。
賞与が、夏冬1年間に4か月分支給されてとすると、
一回の賞与が
240,000×2ヶ月分=480,000円であり、
(私の会社ではこんなに払えていない。)
健康保険、19,680円
厚生年金、32,640円
労働保険、 3,360円
となり、社会保険控除後は、424,320円となる
これに所得税がなんと12%もかかって
所得税、50,918円
以上が天引きさされて
本人への手取りは、373,402円となる。
そして、会社が実際に支払っている金額は、社会保険の倍額負担で、
支給額480,000円+社会保険会社負担分55,680円=535,680円となる。
賞与の本人手取額、373,402円
会社の総負担額、 535,680円
これを年収として合計してみると、
本人の手取りは、 (201,730×12ヶ月)+(373,402×2回)=3,167,564円/年間
会社の総負担額は、(270,020×12ヶ月)+(535,680×2回)=4,311,600円/年間
こうしてみると、いかに税金と社会保険料が高いかが分る。
しかし本人は“手取り額が自分の給与”と感じるので、
「俺の年収は300万円ちょっとだよ。」なんて言うが、
会社の負担額、つまり“人件費”は、430万円以上となるのだ。
本人の年収に対する認識と
実際に会社が、本人と国に支払う“人件費”では、
こんなに差があるのだ。
しかし、ここまでは本人にかかる直接的な人件費であって、
もっと大きな費用が、
人材育成、教育、訓練にかかってくる。
新入生が入ってきて、すぐに役に立つわけではない。
まず研修だ。
仕事が出来るようになるための研修とは、
会社にとってはコストであることに他ならない。
教えるために、会社の今いる人材の時間を裂かれるのであり、
大きなコストである。
他にも、A君に着せるユニフォームとか、色々な福利厚生が発生する。
アイ・タック技研の営業の場合、
2カ月間は実技研修として、快洗隊の店舗の中でスタッフとして働く。
それが終わってから、
先輩の営業と伴って営業の研修を行う。
半分役に立つようになるのが6ヵ月後、
一人で動けるようになるのが早くて一年後、
実際に成果を上げられるようになるのが二年後。
その間は、少なくとも役に立つ分と、
教育に手間がかかる分で相殺される程度である。
そう考えると、少なくとも12か月分の人件費は4,311,600円は、
この若者を一人前の働き手として育てる先行投資となる。
プラス、この若者が一人前になる前、実質的な研修期間中であっても、
実際には移動費、通信費、などの活動費がかかってくる。
今までの経験的に、
この活動費は、人件費の70%程度
人件費4,311,600円×70%=3,018,120円
これらの先行投資を合計すると、
募集費、500,000円
12か月分の人件費、4,311,600円
学びながらの営業活動に要する経費、3,018,120円
すべて合算すると、なんと7,829,720円となる。
(本人の手に渡ったのは、3,167,564円)
人材を育成すると言うことは、莫大な先行投資に他ならない。
しかも、ここまでお金と時間と手間をかけても、
結局、この仕事に対する本人の適正が無かった場合、
あるいは、他の仕事に興味が行ってしまった場合、
あるいは、いろいろな都合で
「やめます。」の一言で、
辞めてしまう場合もあり、
それで、すべてがパーになってしまうこともある。
ひどい場合、立て続けに注意散漫の交通事故を起こし
社用車を2台廃車にした上でやめていったケースまである。
こんなのが何人も重なると、
黒字であったはずの経営が、下手をすると赤字になることすらあるのだ。
「人が欲しい」といくら強く思ったとしても、
「適していない人」
「続く見込みのない人」は、
最初から絶対に採用しないこと。
あるいは、間違って採用してしまったのならば、
不適正が分かった時点で、
出来るだけ早く辞めてもらうことが、本人のためでもあり、
会社の経営を、無駄な赤字から守るために必要なこととなってくる。
しかし、そんな無駄が発生することを恐れて
人材の採用と育成を躊躇していると、会社が成長することは望めないし、
成長しない会社が、社員のモチベーションを維持することは困難だ。
人を採用しない企業では
業績が、横ばいかあるいはジリ貧となることが普通である。
企業は、人、物、金であり、
“人”が企業を生かすも殺すものキーになってくる。
つまり、
?人材を採用し、正しく育成することで、会社の力が増大する。
?会社の力が増すことで、会社は成長する。
?会社が成長することで、社員が自己の向上への希望を持てる。
?社員がモチベーションアップされ、一人一人の力が増大する。
?人材の採用と育成のための先行投資をしても、それを会社の成長が吸収する。
こんな前向きの循環が生まれる。
しかし、ちょっと間違うと、
?人材を不要に、不適切に、不適合な人を採用すると、いずれは辞める。
?人はいつまで経っても育成されず、増えず、会社の力は増大しない。
?人材確保、育成のための先行投資は、無駄金となって会社に損失を与える。
?無駄な先行投資である人材育成・採用を企業防衛のために、やめてしまう。
?会社の力=人の力が増大しなければ、実績も上がらず会社は成長しない。
?成長できない会社の社員は、モラルが低くなる可能性が大きい。
?低いモラルの社員は、成長する可能性は低い。
?人が増えもせず、現在いる人のモラルも低く、会社の力は加速的に落ちて行く。
これは、後ろ向きの循環である。
膨大な先行投資である人材の採用・育成は、
企業にとって、欠かさざるべきものであって、
それを正しく有効に行って、初めて企業の成長が図れる。
それにしても、
中国にしょっちゅう行くようになって
日本の人件費の高さに、改めて驚く次第である。
だからこそ、
人件費が“高いだけ”であって、能力がない人材、意欲のない人材を、
企業は、絶対に掴まないようにしないと、
人件費が高い日本においては
企業の体力が増大するのか、減少するのか、その大きな分かれ目になる。
人とは、企業にとって、それほどまでに大きな要素なのである。
人件費は高い。特に日本は高い。
しかも、人材育成とは、
本人の「辞めます」の一言で
すべてがパーになる危険性をはらんだ、危ない先行投資である。
しかし、企業は人を採用し続けるべきであるし、
人材育成の危険な先行投資を続けるべきである。
これに成功しないと、企業は成長が出来ない。
企業の水平飛行はあり得ず、成長なしでは、逆に衰退してしまうのだから。
そんなことを考えながら、新幹線の中で一生懸命これを書いていたら、
すばらしいものを写真に撮り損ねてしまった。
「深編み笠をかぶった富士山」
横浜を出る時には、今にも雨が降りそうだったので、
「今日は富士山は見えんな」と勝手に思ってしまい、
新幹線が富士駅近くまで来ても、カメラを出そうとしなかった。
富士山側と反対側に座った私は、富士山の方を反対の窓越しに見たが、
下の方はやはりガスに煙っていた。
「やっぱり見えんな」と、つぶやきつつも、
気になって、シートから立ってデッキに出てきたら、
下の方はぼやけているが、
山全体のシルエットははっきり見えて、
しかも、頂上には、頂上の形ですっぽりと笠雲がかかっているではないか。
しかも、その“笠”が、今まで見たこともないような“深編み笠”のように、
深くかかり、すばらしい風景を作っていた。
それを見たのは、富士川を渡る寸前。
今からカメラを席に取りに行っても間に合わない。
仕方なく、自分の目にしっかりと焼き付けることにした。
本当に、最初からあきらめると、
大きなものを失うんですね。
残念!
悔し紛れに、強い西日に照らされた名古屋駅のツインタワーを撮った。