谷 好通コラム

2004年04月19日(月曜日)

934話 増田貴志なる男

アイ・タック技研の開発部に所属する増田貴志(23歳)は、
この会社には珍しい新卒入社の社員である。
入社して丸1年になる。

 

去年の1月か2月頃、ハローワークから面接にやってきた。
聞くと、自分で求人票を勝手に見て、アイ・タック技研?を面白そうな会社だと思って、
自ら応募してきたのだと言う。
大学卒業間近の事である。

 

履歴書を見ると、
東京農大卒業予定、
そして、パワーリフティング部所属、とある。
大学では、“とうもろこし”のリンの吸収と発育の関係がどうたらこうたらと・・・
とりあえず、よく分からん事を研究していたらしい。
しかし、いずれしても「東京農大」
決してバカでは入れない、かっなり優秀な学校である。

 

今ぐらいの季節になると、
来年卒業予定の学生が、頭を黒く染め、似合わないリクルートスーツを着て
街を歩いている姿を良く見るようになる。
いわゆる就職活動。

 

いまさら黒い髪にして、ダークスーツを着たって、
そのあまりにもの不釣合いな雰囲気が、何か惨めっぽささえ感じる。
堂々といつもの通りで、しかも正式な格好をすればいいのに、
その方がその人をよく判ってお互いにいいと思うのに。

 

増田貴志は、就職活動をしなかったようだ。
何故だか理由を聞いたことが無いが、あいつの価値観を想像すると
分かるような気がする。

 

就職は、自分がやって見たいと思った仕事で、
入りたいと思えるような会社を自分で選んで(情報はハローワークで十分)
会いに行って、つまり、面接に行って
不採用ならば、その会社が、そのままの自分を望んでいないということなのだから、
自分に合っていないということでもある。
そういう意味で、不採用は不採用で意味がある。
反対に、自分に合っている会社ならば、
そのままの自分を表現し見せれば、合っているのだから、
採用するはずなのだ。
それでいいのだ。
増田貴志はそう思っていたのでないだろうか。

 

他の学生たちが
就職用の服を作って、
面接用の笑顔の練習をして、
質問に対する模範解答を練習して、
明るく、素直で、行動的であるように見えるための練習もして、
自分の価値観に合っているか、
本当の自分を求めている会社であるかどうか
そんな事は関係無しに
せっせと、
労働条件が良く、
(つまり休みが多くて給料が高いこと)
将来性があって、
格好が良い会社を目指して、空々しく頑張っていると、
増田には思えたのかもしれない。

 

増田貴志は、
そんな刹那的な就職活動は無しで、
自分の価値観で、
天が示したかのように、一直線にアイ・タック技研に入ってきた。
そう思いたい。
運命とは有るものなのである。

 

 

こいつは、自分の価値観で自分の生き方を決めている。
これは凄いことなのだ。
大抵の場合、自分の価値観に“損得勘定”が多分に入って
その人の生き方が決まっていくものだ。

 

学生の頃、所属していた部活「パワーリフティング」は、
思いっきりマイナーなスポーツだ。
「全国大会に出たいと思ったから、みんながやっていないスポーツを選びました。」
と、増田貴志は言う。これは、損得勘定か?
いや違うだろう。

 

たぶん、彼は
“人数が少ないのに一生懸命やっている部活”として、
パワーリフティング部が
気に入ったのではないか。
そして、
あくまでも結果として、
増田貴志が、全国レベルのパワーリフティングの大会に出ることになって、
それに引っ掛けて、
あるいは照れ隠しに、
そんな風に言っているのだと
勝手に想像した。

 

全国大会レベルとは、
いかにマイナーなスポーツであったにしても、簡単に出られるものでない。
それなりの体力と才能があって、
その上で厳しい練習が行われ、はじめて出場出来るもので、
それなりに選ばれた人達である。

 

実にpureな人間で、
私はこういう考え方が大好きだ。
自分にとっての目先の損得勘定を、いちいち考えるような人は、
大物になる可能性は少ない。
能力は高くても、コソコソとした小物にしかならないものだ。

 

そういう意味で、増田貴志は大器晩成、必ず大物になる。
これは断言してもよい。

 

大器晩成型、大物確定の「増田貴志」の現況。

 

1.何でもやりたがり。でしゃばりと紙一重の積極性。
2.正義感丸出しで、自分の命を掛けても助けてくれるタイプ。かつ、けっこうスケベ。
3.アホかと思うほど、いつもニコニコ。
4.メチャクチャ勉強熱心ではあるが、けっこう物を知らない。
5.熱中型、周囲に対しては注意力散漫。
6.誰の言うこともすぐ信じてしまう方で、“カモ”タイプ。

 

ねっ!大物でしょう。

 

今、私は飛行機に乗って上海に向かって飛んでいて、
私の目の前のシートに増田が座っている。
今回の上海出張には、増田を連れてきているのである。

 

只今下降中、乱気流に突っ込んで、私でもビビルほど大きく揺れている。
グワ~ン、ガウ~ン、ドッス~ン、ドンドンドン、ゴゴゴッゴ、ドー~ン
明らかに尻が浮くほど大きく揺れている。

 

大物の増田は、すっかり熟睡中である。
ピクっともしない。
信じられない。

 

上海行きの飛行機を名古屋空港で待つ増田
若干、緊張気味か

 

 

上海に着いて、早速、展示会場に行く

 

 

我がKeePreのブースは信じられないくらい隅っこにあった。
ガックリしながらも、精一杯ブースを工夫する。

 

 

それでも、未来的大物の増田は元気であった。

 

 

今日、この後、私にとって信じられないようなことが有った。
その話は、出来たら明日書こう。
とても長い話になりそうである。

 

その話の主人公
ここに写っている人達は、皆一人残らず、
私達の、あるいは、私のものすごく身近な人達であった。
それは、信じられないほど身近な人達なのであったのです。

 

 

私も増田の明るさを見習わなくてはならないな。

 

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