2003年09月06日(土曜日)
792話 呪縛からの脱出
昔々
ある家に、番犬として飼われていて
生まれてからずっと、首輪を着けられたまま暮らしていた犬がいた
散歩に行った事もない
朝晩の食事をするときも
夜、寝るときも
排泄するときも
主人から頭をなぜてもらうときも
雨の日も風の日も
首輪をずっと着けたままで
首輪につながる約1mの鎖
その1mの半径、つまり3.14平方メートルが彼の一生のすべてである
暑い日照のときは、体の半分でも日陰に入れて何とかしのぐ
寒いときには、体を精一杯丸めて寒さを耐える
端から見れば実にかわいそうな一生だが
何年も何年も、そういう風にしていると
そのうちに慣れてしまい
そういうものだと思って、別に苦痛でもなくなってしまう
自分と比べるものがないのだから
そういうものだと思ってしまう
あるとき、火事が出た
主人はその犬に、たいした愛情を持っていたわけではないが
逃げ道に、たまたまその犬がいたので
とっさに首輪の鎖を解いた
「お前も逃げろ」と
犬はびっくりした
火事にもびっくりした
しかし、もっとびっくりしたのは
半径1mの端に行っても、首輪が自分を止めないので
そのまま足を出せば
出た事のない1m半径の外に出てしまうのだ
そのことに、犬はすっかりパニックになってしまった
1m半径の外は目もくらむような世界
見たことのない角度から、風景が見える
嗅いだ事もない匂いががいっぱいする
生まれて初めて、いや、物心ついてからはじめての1mの外の世界
おまけに火事!
すっかり恐怖におびえきってしまった犬は
恐怖から逃れようとして
慣れている1m半径の世界の中に戻った
火事の火の手が近づいてきて
体を焼き始めるが
せめて、慣れた1m半径の世界にいるほうが
まだマシだ
まだ安心だと思って、逃げようとはしなかった
・・・
もちろん、その犬は死んだ
住み慣れた1m半径の世界で、焼け死んだ
そんな馬鹿な
このなの作り話に決まっている
そう、これは私の勝手な作り話
だけど、似たような事はいっぱいある
ずっと同じ環境にいて
同じような人と、同じような話をして
長い年月、変わらぬ生活を暮らしていると
その外に出るのが、恐怖になってしまうのだ
違う環境、生活になる事が、何の理由もなく恐怖になってしまう
そんなことって、よくあることだ
インドでは左手が不浄な手とされ
食事などをするときには、必ず右手で食べ物をつまんで食べるそうだ
そんな生活を何十年もしてくると
左手で食べ物をつかむことは、恐ろしく汚いことに感じるであろう
気持ち悪くて、絶対出来ない
純真な乙女が、何を間違ったか
とんでもない悪い男と一緒になってしまった
その男は乱暴者であり
ずるく、怠け者であった
乙女は、自分の不幸と間違いに気がついたが
初めての男であり、その男との生活に慣れてしまっていた
端から見ていると
何故、その乙女がそんな悪い男と一緒に暮らしていて
惨めな思いをし、悲しみの涙の生活を続けているのか
さっぱり分からない
悪い男と別れれば
きっと別の素晴らしい男性との出会いがあって
幸せな一生を送れるに違いないと、みんな思うのだが
その乙女は、その男との生活しか知らないので
じっと我慢してしまう
そうすることしか、乙女には思いつかないから
いつもの生活の中で
いつもの朝を迎えて、いつもの会社に出て
いつもの仕事を、いつものようにやっていて
いつもの相手と、いつものように話しをする
そして、いつものように仕事が終わって
いつもの団欒がある
それが、いつものことであるので
いつものことと違うことは出来なくなって
・・・・
時代が変わって
いつもとは違うことをする必要が出てきても
あるいは
いつもと違うことをすれば、簡単に解決する事が分かっていても
それが
いつもと違うことであるので
どうしても出来ない
出来ないから
当然、時代に置いていかれ
時代に置いて行かれてしまったので
逆に、いつものことをやれなくなってしまう
では
どうせ、いつもの事がやれなくなってしまうのなら
いつもとは違うことを
それを時代を作っていくために、やっていれば
時代を先導することになったのに
と、
そう思うが、それがいつものことと違うことなので
いつもの違うという理由だけで、やる事が出来なかった
そんなことってよくある話だ
やってしまえばいいだけなのに
“1m半径の世界”から出ればいいだけなのに
エイヤ!って、吹っ切って
出てしまえば
1m半径の外に出てしまえば
あとは、10m先も
100m先も
1km先も
10km先も
100km先も
1000km先も
10000km先も、みんな同じ
一度吹っ切れば、もう、どこまでも行けるのだ
どこまででも
たった1m半径に縛られていることから脱出するだけで
無限の可能性を手に入れる事が出来るのに
やっぱり1m半径の中にいるうちは
10m先にいける自分に気がついていない
だから!
1000km先にいける自分があることにも気がつかない
気がつくか
気がついていたとしても、吹っ切るかどうか
もう、本人の問題である
今日の全体会議
ものすごく、意味があったような気がする
会議の昼の休憩
会議の部屋が、一度留守になるこの時間、少し先に部屋に戻って
ほんの少しの時間一人になるのが好きだ
会議が終わって
ほっ!と帰り道
夕日が、うっとりするほどきれいであった
帰り道の堤防で、ちょっとだけ渋滞して
余分に10分ほどロスしていたら、夕日に照らされたジェット機の軌跡が
一段と輝いて、新鮮であった
会議が終わって
ほっ!と帰り道
夕日が、うっとりするほどきれいであった
また、いっぱいな事、ありすぎの長い一日であった