谷 好通コラム

2003年08月27日(水曜日)

783話 こんなもんですよ

東京での仕事が終わって
札幌への飛行機に乗っている
東京を基点にすると
よっぽど遅い時間でも、日本国中たいていの場所に移動できる

 

東京は、日本の中で特別の場所であることを
色々なことで思い知らされる

 

「東京を制しなければ日本を制したことにはならない」と
人からよく、そう言われるが
べつに日本を制したいと思って仕事をしているわけではないし
征服欲が私の仕事の原動力ではないから
特に東京を意識しているわけではないが
自分の仕事も、東京で通用できる商売でなければイカンな、とは思う

 

東京に来ると
中枢で全国をコントロールしている人の話を聞くことが出来る
今日も大変面白いことを聞いた
「フロント能力」の重要性について

 

たとえば、自動車をぶつけてしまったとき
半分以上の人がカーディーラーで鈑金塗装を頼む
これは、半分以上の人がカーディラーで車の保険に入っていることも
大いに関係しているが
もっと重要なことは、カーディラーでのフロント能力の問題であると言うのだ

 

フロントとは
ユーザーと、実際に修理をする職人さん部門とのコーディネーター
しかも、ユーザー側に立ったコーディネーターである
ディーラーで
鈑金塗装を頼んだとき、ユーザーの窓口になるのがフロント
ユーザーはフロントを通して仕事を依頼する
フロントが大丈夫だと言えば
ユーザーはそれで安心する
それはディーラーが大丈夫だと言ったことになるのだからなのか?
大きな会社が大丈夫と言ったから大丈夫なのか
確かにそうであろう

 

しかし、そのフロントが言ったことが間違っていたらどうなのか
あるいは、その対応が、ユーザーを無視したようなものであったら
また、受付の価格と、実際の請求の価格が違っていたら、どうだろうか

 

どうだろうか
それは間違いなく
ディーラー自体の信用の失墜になるだろう
カーディーラーは、もともと車を売ることがメインの仕事
それが本業以外のビジネスである鈑金塗装で信用を失墜したのでは
大切な自分のメイン商品=車の販売の顧客を失うことになる
それでは、自分たちの存在意義そのものがなくなってしまうのだ

 

だから、ディーラーの鈑金塗装は
絶対に信用を失わないように、高い品質を要求される

 

ディーラーの鈑金が割高であることは
みんな知っている
それでも、なぜ、みんながディーラーに鈑金を持っていくのかといえば
その作業が悪かったとき
フロントで文句が言えるし、やり直しをさせることも出来るし
そして
フロントが出した値段は
たとえ、それが見積もりミスで、本当はもっと高い費用が掛かったとしても
文句を言って、支払いを拒否できる
そんな、ちゃんと責任を取ってくれるであろうフロント=ディラーだから
割高なことが分かっていても
みんなは、鈑金塗装をディーラーに出すのだろう

 

鈑金という、形のない商品
きれいに直ったか、そうでもないのか
鈑金塗装は、はっきりした基準のない商品だから
信頼の置ける店舗に出したいという心情は、よく理解できる

 

最近でこそ、鈑金塗装の内製化がディーラーの中でも進んでいるが
それでも、鈑金塗装は職人仕事であり
長い経験が基になる仕事であるので
カーディラーに鈑金を頼んでも
いわゆる「鈑金屋さん」へ下請けに出される場合が、まだまだ多い
ほとんどが、そうだと言ってもいい

 

そして、ディーラーが鈑金を下請けに出しているのは
ユーザーだって知っている
きちんとは知らないかもしれないが
たとえ
それを知らなかった人が、実はディーラーに頼んだ鈑金が
下請けの街の鈑金屋さんで施工されていることを知っても
べつに怒りはしない

 

何故かと言えば
ユーザーが頼んだのは、ディーラーのフロントであり
そのフロントがユーザーから信頼できる存在なのだから
そこから、どこへ仕事が流れていこうと
その仕上がりが、ディーラーの信用に匹敵するだけのものであれば
それでいいのである

 

ディーラーの信用を
一手に引き受け
信用を体現するのがフロントであって
だからこそ、そのフロントは
車のことについて精通していなければならず
鈑金のことにも精通していなければならない

 

ユーザーの車について、ユーザーよりもはるかに知っていて
その正しい知識において
ユーザーの車を正しく直してくれる
そして、裏切らない

 

その信頼感が
保険からも、鈑金からも、修理からも
ユーザーにとって必ずしも安くないディーラーが
いまだに、ユーザーを放さない原因であろう

 

フロントは、それだけでなく
厳しくCS(顧客満足)を要求される職業なのだ
ユーザーとの会話の中で、ユーザーが何を望んでいるのか
その欲求を正しく汲み取り
その欲求を正しく満たすような作業指示をする
つまり、コーディネイトをする

 

そして逆に、ユーザーが不満を持ったとき
なにが不満なのか
その原因が何なのか、誤解なのか、言いがかりなのか
どうすればその不満を解決できるのか
どうすればいいのか
それを正しくコーディネートしなければならない

 

フロントとはある意味、究極の接客であるのだ

 

そのフロントで一番言ってはいけない言葉
「こんなものですよ」
ユーザーが、たとえば鈑金の仕上がりに不満を持ったとき
絶対言ってはいけない言葉が
「こんなものですよ」なのだそうだ

 

フロントがユーザーの車をお預かりするとき
まず
どのように、どんなレベルで、いくらぐらいで
その傷を鈑金塗装して欲しいのか
見極めなければならない
その上で出来るものは出来る。出来ないものは出来ないと
ジャッジもするのだ
「安くやってもらいたい」は、どの客でも言う言葉
しかし、その車をどんな車なのか
直してからどうするのか
フロントは、そんなことまで見極めないといけない

 

「安くやってよ」の言葉で
安かろう悪かろうでいいのだ、では話にならない

 

「安くやってよ」の一言で、安ければいいのだろうの
悪い仕上がりにされてしまうのでは
うっかり、「安くしてね」とも言えない

 

仕上がりに不満を言うユーザーがいるのであれば
それは、フロントの判断ミスか
あるいは、フロント、つまり受注者の作業者に対する指示ミスか
あるいは、作業者の手抜きであって
そこを判断し、適切に処理することによって
また、同じことが繰り返されることを防止し
フロントとしての能力も上がることになる

 

ユーザーの不満は
それを真摯に受け止めることによって
フロントの能力を上げるチャンスにもなるし
適切な処理をすることによって、ユーザーの信用をむしろ得ることにもなる
これは何のビジネスにおいても言えること

 

最悪なのは
ユーザーが不満を言っても
「こんなものですよ」と、自らの責任を放棄してしまうこと
担当者からすれば
クレームに対して、確かに一番簡単な言葉
「こんなもんですよ」

 

自分自身の品質をも「こんなものですよ」としているわけであって
確かに、これは最悪である

 

ある人が
自分の車を、鈑金に出した
しかし、私にもはっきり分かるぐらいの稚拙な仕上がりであった

 

アホらしいほどの仕上がりであった
やり直しを要求した
返ってきた言葉が
「フェンダーの修理って、こんなものですよ」
たまたま、まったく偶然
その言葉を言ったのが
そのシステムの会社の社長であったという
この会社は、フロント力の優劣以前に、会社自体が病んでいるようだ

 

ディーラーがいまだに強いのは
信用を第一とするフロント力に負うところが大きい
その事実を謙虚に受け入れなくてはと思った

 

なぜなのか理由ははっきりしなかったのだが
言われた「こんなものですよ」の言葉に
すごく引っかかりを感じてしいた
今日、東京で、フロント能力については
多分日本でも一番影響力を持っている一人であろう人から
そんな話を聞いて
その引っ掛かりがどこにあるのか
よく分かった

 

早く、傷が浅いうちに撤退しなければならない
そう真剣に考えさせられた

 

ここから、これを書いているのは
札幌駅の際にあるホテルでだ

 

そろそろ夜12時半を過ぎる

 

ビルに囲まれていて、ピッチが届かない
その上、部屋の電話はコードがはずされないように
コネクターの爪が折ってある、インターネットの使いようがないのだ
最近では珍しいアホなホテル
どうしても、回線がつなげない

 

この話は
ホテルを出て、外でピッチで上げるしかない
なんとも時代遅れのホテルもあったものだ
しかし、このホテルインターネットで予約したのだが
これも「こんなもんですよ」の一つか?

 

疲れがどっと出る。
もう人が少なくなってしまった札幌駅のコンコース

 

 

また、日付が変わってしまった

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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