2001年09月16日(日曜日)
224話 イェイライシャン
40数年前の
夜の繁華街
屋台の物売りが出ていた
「イェイライシャンの球根だよ~
買った!買った!本物のイェイライシャンの球根」
若い物売りのお兄ちゃんが
酔っ払いを相手に、屋台に並べた「球根」を売っていた
「台湾から来た、不思議な、不思議な花、“夜来香”(イェイライシャン)
一夜で、突然、茎が伸び、花が咲く
真っ赤な、不思議な花
“夜来香”(イェイライシャン)の球根
庭に植えるだけで
ある夜、突然、えもいわれぬ官能の香りとともに
南国の不思議な花が開く
お宅の庭が、夢の花園になるよ」
「あの絶世の美女、山口淑子が歌う“夜来香”
(イェイライシャン)の、本物の球根だよ」
※山口淑子とは(山口淑子のホームページより)
戦前「李香蘭」の名前で、歌う映画女優として
満州、中国、
そして日本で人気を集めた女性。
戦後は、日本人女優・山口淑子として再デビューし、
アメリカの映画やミュージカルにも進出。
さらに1974年には参議院議員に選出され、政治家としても幅広く活躍
※ヒット曲“夜来香”とは(同じくホームページより)
李香蘭の上海における1940年代のヒット曲。
日本でも彼女が山口淑子に戻り、佐伯孝夫の歌詞で
昭和25年にビクターから日本語版をリリースし、ヒットした。
チョっといっぱい飲んで、
ご機嫌な、お父さんは
大の植木好きであった・・・・
「イェイライシャン?
そう言えば、ラジオでよく、
“イェイライ~シャン~~ いとしのイェイライ~シャン~~”
って、唄ってるよな
イェイライシャンちゅうのは、球根だったのか?
“夜来香”なんて、ま~なんちゅうイイ字だ
へぇ~、知らんかった~」
「しかも本物だってよ、こりぁ~買わないかんわ(注:名古屋弁のイントネーションで)」
“本物の”イェイライシャンの球根を買ったお父さんは
大喜びで、家に帰って
その球根を庭に植えた
庭の特等席を空けて
しかも周りに柵まで作って
大事に、大事に
“本物のイェイライシャンの球根”を、鼻歌まじりで
植えたのであった
“イェイライ~シャン~~ いとしのイェイライ~シャン~~”と
当然、「夜来香」と、特大の名札も差した
近所の人にも、自慢しまくった
嬉々として喋った
そして
・・・「お彼岸」の日も近づいたころ
その柵に囲まれた、庭の特等席で
真っ赤な花が咲いた・・・
・・・
そして・・・・・
近所の土手にも、田んぼのあぜにも
“その真っ赤な花”が
あふれんばかりに咲いた
「彼岸花」・・・・中国名「夜来香」
私の親父は
ただの彼岸花、彼岸の頃その辺に咲き乱れる「彼岸花」を
中国名「夜来香」と言う名前の彼岸花を
夜の屋台で
“買って”きてしまったのだ
庭の特等席に、柵で囲んで、名札付きで、大事に植えて
そして近所に自慢しまくってしまったのだ
この話を、彼岸花が頃になると、必ずビールを飲みながら話してくれた
その、人のいい親父が
「夜来香」を買ってきた話を、今年は聞けない