2001年06月21日(木曜日)
第145話 新潟でTu154
今、新潟から名古屋に帰る飛行機の中
この飛行機でも
「大きく揺れる事が予想されます。シーツベルトをしっかりお締めください。」
「また大きく揺れても、飛行の安全性には影響ありませんので、ご安心ください。」
などと、機内アナウンスで言っている
昨日から4回目
チョッとうんざり
先程、新潟空港でスゴイ飛行機を見た
「ツポレフ154」、通常“Tu154”と書く
旧ソ連の旅客機だ
初飛行から30年以上の古い型だが、まだ現役のバリバリ
と言うより
旧ソ連では、崩壊以前より国力が衰えてきていたであろうか
飛行機は、軍用機を開発するのが精一杯で
旅客機の開発まで手が回らなかったようで
新型機があまり開発されなかった
まったく開発されなかったわけではないが
特に、エンジンの開発が中途半端
新型機でも
西側の旅客機の発達には全く追い付かなくなって
性能が低くかった
旧東側の航空会社すら採用せず、ほとんど製造されなかった
だから
旧式の飛行機が、まだ巾を利かしているのだ
遅れているのは決定的に「エンジン」
西側のジェットエンジンはすべて発達した「高バイパス比ターボファンジェット」
ジェットエンジンは“ケロシン”つまり“灯油”を燃料としている
初期のジェットエンジンは
灯油を、タービンで圧縮した空気の中で燃やし(爆発させ)
その噴流を後部に出して推力を得ていた
※これを“ターボジェット”と言う
しかし、これではあまりにも効率が悪いので
その爆発力を、ターボ軸に取りつけたファンに伝え
エンジンの円周上につけたバイパスに流した空気を、ファンで後部に噴出させるようになった
ジェット噴流、プラス、ファン噴流の合計が、“推力”となる
※これをターボファンジェットと言う
現代のジェットエンジンは基本的にすべてこのタイプ
“高バイパス比ターボファンジェット”とは
そのファン墳流の率を高くしたもの、つまりバイパスに流す空気量を多くしたもの
高バイパス比となるわけ
これはもちろん“必要性”があってそうなっている
その必要性とは
「騒音問題」と「経済性」と「環境問題」
事の発端は騒音問題であった
空港周辺の住民からの騒音訴訟が、世界的なレベルで起こったとき
航空需要が急増している時に一致していた
航空会社は需要増大に応えるため、空港への発着枠の拡大が至上であった
航空会社が「静かなジェット機」を要求したのだ
ジェット噴流は「爆発音」、ドカーンとか、ゴォーオォーとか、という類の音
ファン噴流は、ブォーとかという、言わば扇風機の音の類
圧倒的に“ファン墳流の音の方が静か”
しかも、バイパスを形成するダクトがジェット機関部を大きく覆う事になり
機械駆動音も大幅に軽減される
騒音軽減に“高バイパス化”は最短の解決策であった
次に経済性
灯油を燃やした排気ガスを「噴流」として使うより
ファンを駆動する「駆動力」として使う方が、閉鎖的であり
うんと効率的である
つまり「燃費」がイイ
20数年前のオイルショック以来、燃料の高騰に対して
航空会社は、燃費の向上を一様に要求した
最後に環境問題
燃費が良いという事は「完全燃焼」と、エネルギーの高効率活用を意味している
つまり、その結果出てくる排気ガスが、よりクリーンであり
しかも少ない事を意味する
西側のジェットエンジンメーカー
“プラット・アンド・ホイットニー社”
“ゼネラルエレクトリック社”
“ロールスロイス社”は
躊躇することなく
「高バイパス比ターボファンジェット」の開発競争に没頭した
その結果、コンパクトで、燃費の良い、“チカラ”のあるエンジンが出来た
ユーザーの“必要”“要求”は“開発の母”である
その間
旧ソビエトは、政治、官僚の要求、つまり軍事競争に奔走し
人々の要求
「騒音問題」と「経済性」と「環境問題」を
ホッタラカシにしてしまった
そうしたら、旅客機のエンジンとして優れた物を作ると言うことについて
西側に完全に遅れてしまった
そういう意味において
「Tu154」は化石である
効率の悪いエンジンを背負っている「Tu154」は
全身の3分の1がエンジン関係で占められている
それに対して、西側の飛行機
今乗っているエアバスのA-320
エンジンは両翼に、2つぶら下がっているだけ
乗客数はA-320の方が多い
全体重量はたぶん“Tu154”の1/2以下であろう
燃費は
乗客一人あたりで考えれば、多分1/4以下であろう
“Tu154”は
大きく重い、エンジンが、それを支える胴体の重量を上げ
それを持ち上げる翼を大きくし
燃費の悪さが
積載燃料の量を多くし、さらに重量を上げ
乗せる事が出来る乗客数を、著しく制限することになっている
官僚の要求は、旅客機すらダメにしてしまった
“Tu154”は
その象徴
新しい効率的な飛行機を買えず
効率のひどく悪い“Tu154”を使い続けるロシアの航空会社に競争力は無い
ロシアの持っている厳しさは
こんなところにもあり、根がじつに深い
ユーザーの“必要”“要求”は“開発の母”である
忘れてはなるまい