2001年03月20日(火曜日)
第59話 台風の中の命
約40年前の9月26日夜
東海地方を伊勢湾台風が襲ってきた日
谷清隆君はほとんど死んだも同然でした
名古屋市の南区、伊勢湾台風の被害が最も大きかった所の一つに
私達一家は住んでいた
その夜、今まで経験しなかった猛烈な暴風雨
小学生2年生の私と、父と母(以後オヤジとオフクロ)
生後4ヶ月の清隆、の4人家族
平屋だが、建てたばかりの家だったので
向かいの古い家の4人家族が避難してきていた
停電の中、ロウソクの回りにみんなでジッとしている
深夜、怖いながらも子供達は眠くなってきた頃
雨戸の下から、 すすーっとっ水が畳の上をすべるように入ってきた
今でもはっきりと目に焼き付いている
しばらく間をおいて「堤防が切れた―ッ」と、オヤジが叫ぶ!
雨戸を蹴破ると、水がどっと入ってきた
「大生小学校へ避難するっ」とオヤジがきっぱりとうなる
この地域は、海抜0メートル以下地帯で
平屋にいては危ない
洪水の時は2階まで水に浸かる
特にこの日は大潮の満潮と重なっていて、最悪の状況だった
清隆はどうする!
4ヶ月の赤子、暴風の中、洪水の中
オヤジは苦渋の表情でビニール袋を赤ん坊にかぶせた
「窒息しちゃう、死んじゃうヨー」オフクロの声
「どっちみち、このままでは雨と水で窒息する。同じだ!」
不思議とその毅然とした姿と声を覚えている
学校まで50メートルぐらい
すばやい判断が効を奏して、割と早く着いた
ビニールを外してもらった赤ん坊も元気で泣き叫んでいた
学校に着いて
入ったのがなぜか1階建ての校舎
チョット一息している間にも、どんどん水は増えてくる
ここにいては全滅だ
向かいの2階建ての校舎に行かねばという事になった
距離にして20メートルぐらい
しかし、水はもう人間の背丈ぐらいまで来ている
オヤジ“武”は身長180cmでヤセ型
昔の人の中ではずば抜けて背が高い、かっこいい
対照的にオフクロは140cm台のちっちゃい人
長身のオヤジ
!右手にオフクロをかかえ
!首に私をぶら下げ
!左手に、ビニール袋を再びスッポリとかぶされている清隆・赤ん坊を抱き
泥水の中に飛び込んだ
悪戦苦闘の行進
貯木場から流れ出たでっかい材木が襲ってくる
(多くの人がこの材木で亡くなった)
長~い長~い20メートル、死の行進
半ばまで来た時、口まで来た水に溺れ
武が、もがきながら叫んだ
「もうだめだっ、赤ん坊ほかるぞっー」
「捨てちゃいかん、いかん、捨てちゃいかーん、」と言って
オフクロが自分をかかえているオヤジの手を振りほどこうとしている
赤ん坊はなすなら私をはなせ、ということか
すでに赤ん坊をくるんだビニール袋は
オヤジに抱えられたまま、水の中にほとんど沈んでいる
その時、目の前にロープが飛んできた
向かいの2階の校舎から、消防団の人が投げたロープ
そのロープを、オヤジとオフクロがつかんだ
そして、あっという間に2階の校舎まで引き寄せてもらった
助かりました…
避難の人々でごった返している中
赤ん坊は?
大急ぎでビニール袋を開けた
“生きてた”
泥まみれになり、不機嫌そうな顔をして生きていた
オフクロの真剣な顔と、オヤジの嬉しそうなくしゃくしゃの顔を覚えている
そういう私は、親父の首を離したら死んでまう!と思って
ただただ、親父の首にぶらさがっていただけ
それから赤ん坊清隆は、避難所で元気であった
オシメがないので
翌朝オヤジが家からもって来た“こいのぼり“を腰に巻き
金太郎さんになって元気であった
という訳で清隆は「ナンと生きていた!」のである
だから奴は“しぶとい”のです
半端じゃない筋金入りのしぶとさなんです。
そして
オヤジ・武はすごい人なんです
背がでっかいだけじゃなくて、ホントすごい人なんです
そんなオヤジも歳とって、すっかりちぢんでしまいました
※またナンか憎まれ口を考えている谷清隆・元赤ん坊・現常務