2001年10月15日(月曜日)
247話 不意の感動
13日、鈴鹿・F1日本グランプリ予選の日
私は、パドックの上で、極上の食事の時間を経験した
そのとき痛感したこと
頂上に“すべて”が集まる、という現実
この日、F1に集まった観衆は、十数万人
ひとつ下のレギュレーション、たとえばFニッポンならば一万人集まれば上等
MINEサーキットの時は、どう見ても数千人しかいなかった
桁がひとつ以上違う
ましてや草レースともなると、数十人の観客すらいない時もある
華やかさと名声は、すべてF1に集中していると言っても過言ではない
そして、圧倒的な富
F1では何百億、何千臆円ものお金が動く
スポンサーは、ほんの小さなスペースにロゴを入れるために
億単位の金を注ぎ込む
全世界にファンがいて、テレビでも放映されることを考えると
それだけの効果が、充分に期待できるからだ
そして、F1トップドライバーの年収は数十億円にもなると言う
われらが、キーパー洗車.comレーシングチームでは
全員が手弁当
チーム活動において収入を得るものは、誰もいない
べつに、花形であり、お金が儲かるF1を目指しているわけでもない
かといって、チンタラと、いい加減なことをして、遊んでいるわけでもない
一生懸命である
かなり、かなり一生懸命である
考えてみれば
スポーツと呼ばれるものすべてが、似ている
ほんの一握りだけのスター
その裾野には、何万倍ものアマチュアが存在している
野球も、サッカーも、ボクシングも、マラソンも
みんな似たような構図によって
トップスターが支えられている
日本のレースで、アマチュアらしいレースのトップカテゴリーが
シビック・フレッシュマンレース
テツ清水が、今年、参戦している
全国の地方選からトップレベルレーサーが総勢40名、選抜で出場するのが
F1前座の、「シビックチャレンジカップ」なのである
その前夜祭パーティーが、13日夜
鈴鹿サーキットホテルで行われた
ホンダ主催で、出席者全員“タダ”である
バイキング形式の立食パーティー
料理は量もたっぷりで、上質なものであった
明日の決勝を前に、みんな底抜けに楽しむ
1チーム10名以上は出ており、40チームだから、全部で500名以上はいる
来賓の挨拶も終わり
さぁ乾杯という時に
「テツ清水さん、舞台にどうぞ」と、不意にアナウンスが呼ぶ
突然の指名に、面食らったような顔をして、しかし平然と
いつものはにかむような笑顔をしながら舞台に上った
アナウンサーがテツ清水を紹介する
「14年続いた“シビックレース”、来年からはインテグラレースとなり
今年が、シビックレースとしては最後となります
そのシビックレースに最初から参戦し、数々の名勝負を繰り広げたテツ清水
彼なしにはシビックレースの歴史を語ることは出来ません
その彼が、10年ぶりに鈴鹿に戻ってきました」
そして、乾杯の音頭を、と
チームのみんなも、ただ、ただ呆然
感動の時であった
まさに、レース界のトップであるF1を支えてきたのは
この人たちだったのだ
富士山を思い出す
日本一の美しい富士山は
ほんの小さな頂上に比べて、その何千倍、何万倍もの体積の“山体と裾野”
それ全体が、美しい富士山を作り出している
“山体と裾野”は、山頂の“ため”に存在しているのではない
山頂も含め、山体と裾野、その全部が富士山である
決勝レース当日
F1ドライバーが、オープンカーに乗って、コースをパレードするとき
前座戦のシビックたちは
グランドスタンドの裏手、バックストレート上に整列していた
その隊列の間を、パレードが通り抜ける
その時
シビックドライバーが差し出す手に
F1ドライバーのほとんどみんなが、にこやかに、丁寧にタッチしていった
世界のトップである彼らの目は、観客を見るその目ではなく
同志を見る目であったような気がする
私は、ジーンと来て
その場にみんなと一緒にいたことが、この上なく幸せに感じられた
・・・・・
しかし、ビジネスは違う
トップしか残れない
ビジネスにアマチュアは、許されない
ビジネスの世界においては、あくまでもトップを目指すものしか残れない
それは
モータースポーツの世界では
F1に、ほとんどすべての富が集中しているように
それを
予選の日、パドック上での食事のとき、思い知らされていた
奥歯をそっと噛みしめる
※シビックレースのテント村
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