2002年06月30日(日曜日)
457話 ふた桁違いの話
はるか昔、20年近く前の話
独立して、間のない頃
お金の価値基準が混乱してしまったことがある
独立するまでは、ガソリンスタンド勤務のサラリーマンで
ひと月30万円ほどの月給をもらっていた
縁あって独立し、ガソリンスタンドを経営するようになってからも
しばらくは、同じ金額の月給にしていた
そうすることがいいと思って
独立して社長になっても (と言っても、自分を含めて2人の社員だけだが)
個人のお金は、月給として取るわけで
売り上げが全部自分のお金になるわけではない
当たり前の話だが
一回だけ、その辺が混乱してしまったことがあった
そのとき経営していたガソリンスタンドは
精一杯努力してドンドン売り上げが上がっていた
9月に始めて、12月にはガソリン、軽油、灯油等を全部で280kl売った
その他にタイヤとかオイルなども売って
計2千数百万円の売り上げである
平月でも2千万円近くあった
その頃の支払い条件は
月末締め切りの、45日後現金払い
(今はもっとウンと短くなっているが)
売り上げは、ほぼ全額現金で入ってくる
ということは
売り上げが入り始めてから、75日後に払うという勘定だ
支払いの前日には、75日分、つまり2ヶ月と15日分の現金が手元にある
ピークで5千万円近くの現金が銀行にあるのだ
もちろん、これは自分のお金ではない
大半を仕入先に支払わなくてはならないし
(ガソリンスタンドは売り上げは多いが、利益率は異例に低い)
色々な経費も支払わなくてはならない
全部支払って、残れば黒字であるし
足らなければ赤字ということで
銀行預金に残っている5千万円は、儲かったものでも何でもない
たまたま預かっているだけ、のようなものだ
しかし、それにしても
その瞬間
銀行に、通帳とハンコを持っていけば、5千万円の札束が出てくるのだ
通帳もハンコも私の手元に有る
通常、支払いは、銀行振込みであったリ、小切手を切ったり、手形で決済する
だから、現金そのものを目にすることは皆無である
だけど、一回だけ、そのお金を現金の形で見てみたいと思って
銀行から、2千万円ほど現金で引き出したことがある
見るためだけに
はじめて見る20個の百万円の札束
「すっげぇ~~、う~~ん」
思わず、生唾を飲み込む
その気になれば、これの2倍半の札束を出してくることが出来る
その札束を持って逃げることも出来る
ほんの5分ほど
頭の中が、邪悪の妄想の中で遊んだ
「フェラ~リが買える。」
「焼肉が、特上カルビが腹いっぱい食える。」
「毎日酒を飲める。」
「どっか最果ての地に逃げて、食いつなげは、10年以上は遊んで暮らせる。」
そんな妄想が頭の中をめぐった後
もう一つのことを想像した
「私が逃げたら、親父とお袋が丸裸になって、家から追われる」
(商売を始めるに当たって、支払保証の為に実家の土地家屋を担保にしてもらった)
「私が逃げたら、私をずいぶん無理して独立させてくれたFさんが失脚するだろう。」
「私が逃げたら、私の家族は、ずっと隠れて生きていかなくてはいけない。」
「今、逃げたら、せっかく独立できたのに、もう一生会社を持つことは出来ない。」
大切な人達を不幸に落とし入れて!
可能性という一番大きなものを失って!
取り返しのつかないことになるのだ!
その代償が、フェラ~~リか?
その代償が、特上カルビか?
働かなくてもいいつまらない生活か?
くだらない!!
「フ~~~~ウッ」
・・・・・長~いため息をついて
5分間の白日夢から醒めた
と同時に、もう一つのことに気が付いた
「逃げなくても、赤字をいっぱい出して、会社を潰してしまったら
同じようなことになる・・・・・・こりゃエライこっちゃ。
商売、商売!頑張らんといかんなぁ~」
その日、変な興奮を経験した私は
その夜、それを一つだけ実現するために、焼肉屋に行った
そして、“特上カルビ”を、“3人前”注文した
特上カルビは、霜降りで、それはそれは美味かった
しかし、2人前目を食べる頃から、脂っこくなってきて
3人前目は、気持ちが悪くなってしまい
美味くなかった
「こんなもののために、逃げなくって良かった」
小声でつぶやいたその言葉の意味は、誰も分からなかっただろう
(*^_^*)
商売をやっていると
動かしているお金の額は、サラリーマン時代の月給とは桁違いものだ
こんなちっぽけな会社でも
1年に扱う金額は、Oが9個もつく
仕事でそんな金額を動かしていると
お金の基準単位がおかしくなってしまいそうだが
実はそうでもない
商売のために使うお金は、合計すれば大きなものになるが
一つ一つの小さな要素の積み重ねであり
その小さな要素に対して
しっかりと採算意識を持っていなければならないのだ
売り上げは億単位でも
商売としての利益は、売り上げのせいぜい1%前後
たとえば月500万円の売り上げを持っている担当者でも
あらゆる経費を差し引けば
5万円の経常利益を上げているに過ぎない
1万円の余計な無駄遣いをすれば、それだけで20%の利益が吹っ飛んでしまう
たとえば出張のホテル代
今ではインターネットを使って、だいたい1泊5,000円台に収めている
それを、検索するのが面倒で、安易に8,000円台のホテルに5泊すれば
15,000円の無駄
利益の30%が、何の意味もなく無くなってしまう
人件費は、経費の中で最も高いものだ
本人の手取りが1日1万円の若い子(月24万円の手取り)でも
税金、社会保険、福利厚生、賞与
そして車両費、交通費などの活動経費を考えると
3~5万円はかかる
その若い子の上司が、適切な指示を怠って
意味の無い出張を1日させてしまうと
それだけで1ヶ月分の利益が“ゼロ”になってしまうのだ
採算をキチンと取っていくには
売った金額の桁に比べて
使う費用の金額を
2つ下の桁のレベルで、シビアに考えて行かないとならない
黒字を出すということは、本当に甘くないのだ
そう考えると
レースの世界はまったく逆だ
私は前々回のレースで、“賞金”をもらった
福島君の不運なリタイアで転がり込んだ、あの2位に対する賞金だ
その金額「3万円」
源泉徴収を引いて、この手にもらったのは2万7千円
(千円札が1枚隠れてしまっている)
レースをやり始めて丸2年
初めて稼いだお金だ
この2年で、すでに使ったお金は、その2桁上の金額だ
向こう3年先の小遣いまで全部つぎ込んで
初めて稼いだ金が2万7千円
レースは、商売には全くならない
稼いだお金の2桁上のお金を使ってしまう
ただの遊びである
そこにロマンがあろうと、何であろうと、ただの贅沢な遊びである
レースがビジネスになる才能を持った人は
2桁どころか、3桁に一人であろう
99.9%のただの人にとっては、ただの遊びである
そこを忘れると、イカンのである
商売は、2桁違いにシビアであり
レースは、2桁違いにタダの遊びである
決して忘れてはならない2桁なのである
私はこの2台に、何とか追いつきたいと
闘志を燃やしている
ただの遊びとして
元気の素として
ひょうきんで、しかも速い!重富君の58号車
テツ清水の車を引き継いだ福島君の99号車
しっかりシビアに仕事して
しっかり遊ぶのだ
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