谷 好通コラム

2002年07月10日(水曜日)

465話 私が首になる?

数年前のこと
私は、止まった列車の中で8時間以上を過ごしたことがある

 

その時、今日のように台風が来ていた
名古屋から福岡方面に向かって新幹線に乗っていた
その頃の最新鋭、流線型の青とグレーの500系であった

 

台風が来ていて、西方面への新幹線はダイヤが大幅に乱れていたが
何とかなるだろうと、とりあえず乗ったのだ
名古屋を出て早速、「岐阜羽島」で約5分停車
やはり順調ではない
岐阜羽島を出て、徐行運転が続き
それでもやっと「米原」の駅にさしかかった

 

米原の駅は、「こだま」しか停車しないので
「ひかり」「のぞみ」など、通過する車両のための線路、つまり本線は
ホームと離れたところにまっすぐ通っている
しかも若干カーブになっているので、少しバンクがつけられている

 

私が乗った「のぞみ」は
その米原の駅の中の
本線上に“止まった”
そこは、ホームから離れたところ
しかも、バンクがついているので、車両はかなり傾いている

 

「信号が赤になっていますので、いったん停車しました。
情報が入るまで、しばらくお待ちください。」
と、車内放送が入る

 

それから数十分経ったとき、電気が消えた
それから、ちょっと暗めの明かりが、また点いた

 

「ただいま情報が入りました。彦根付近で立ち木が線路に倒れ、危険なため
送電をストップしたとのことです。
只今、予備電源で室内の明かりを点けております。
お急ぎのところ皆様には、大変ご迷惑をおかけしますことを
深くお詫び申し上げます。
また、新しい情報が入り次第、お知らせいたします。」

 

それから何時間か経った
車内放送は、同じような内容を繰り返すばかり

 

エアコンが弱い
徐々に蒸し暑くなってきた

 

トイレの水がうまく流れない
少し匂いが漂ってきた

 

列車は本線上に止まっているので、ホームから離れていて
外に出ることが出来ない
缶詰状態だ

 

反対側の上り線に止まった200系の列車は
ホームへの引き込み線上にいるので、ホームにつけている
修学旅行の学生であろう、大勢の学生服姿が
ホームでキャッキャと騒いでいる
彼らにとっては、台風も、列車が止まってしまったというハプニングも
きっと、楽しい思い出になるのであろう

 

こちらの列車は、最悪だ
蒸し暑くて、臭くて、しかも傾いている
トイレが使いづらいので、女の人は特にかわいそうであった

 

そのうちに乗客が騒ぎ出す

 

「一体、どうなっているんだ!
ドアを開けてくれ!
空気を入れ替えないと、窒息しそうだ
ドアを開けろ!」

 

車掌に食ってかかるが、車掌は「出来ません」と言う

 

技術的には、もちろん出来る
非常停止した時のために、手動でドアを開けるレバーがついている

 

しかし
「規則によって
本線上では、事故での非常停止以外でドアを開けることが禁止されている」
と、車掌は主張する

 

乗客は、「今がその非常時ではないか、とにかくドアを開けろ!列車はみんな止まっているんだろ」

 

押し問答が続くが、車掌はガンとしてドアを開けようとしない

 

そして
「そんなことをしたら、私の首が飛んでしまいますよ。」

 

その言葉に、みんなシ~ンとしてしまった
たしかにそうだと思って、みんな黙ってしまったわけではない
あるいは、それはかわいそうだと思って、シ~ンとしたわけでもない

 

列車が止まってから、もう6時間以上経っている
乗客のストレスは限界に来ているのに
「私が首になる」と言って
空気の入れ替えをしようとしないこの車掌に
みんな絶望感を持ったのだ

 

ある乗客が、押し殺したような声で言った

 

「あなたは、自分の立場が悪くなるから、という理由で
この状況に対して
なんら対処しないということですね。

 

自分の立場のことを
乗客の今の状況に優先させるということですね。
これは、大きな問題です。
しかるべきところに出ましょう。
この列車が動いてから」

 

この言葉に、車掌の顔色が変わった
しばらくして、車掌が電話をかけ始めた、指令を出している本部へ
しかも、みんなの前で

 

「お客さんが、困っているんですよ
エアコンも効かないし、トイレが詰まってしまったし、ドアを開けさせてください」
「どうしても、ダメですか、お客さんがパニックになったら、私知りませんよ。
誰が責任とってくれるんですか? 私にはもうどうしようも出来ませんからね
どうなっても私は知りませんよ」

 

車掌は、お客の立場に立って、ドアを開ける許可を求めたのか
いや
その会話は、責任のなすりつけ合いが始まっただけ
私にはそう聞こえてしまった

 

まもなくして、車掌の主張が通ったのか
ドアを開ける許可が出た
「私も、こんなことは初めてですよ」とぶつぶつ言いながら
車掌は、ドアを手動で開けた

 

ドアが開けられ、台風の強い風が一気にドアから入ってきた
新鮮な空気が、車内を吹き抜ける
あちらこちらで安堵の声が上がる

 

みんなが交代で、外の空気を吸いにデッキに出て来る
車内がいっぺんに穏やかになった
「今、異例ではありますが、ドアを開放して空気の入れ替えを行っています。」
と、自慢げな車掌の車内放送があった

 

列車が動いたのは、米原の本線上に止まってから8時間後であった
私は、そのまま博多まで乗って行く気にならず
大阪で降り
ホテルに泊まって明日朝一番の列車で博多に向かうことにした

 

 

もうひとつだけ別のこと

 

広島で、公共の設備を会場に借りてセミナーをやった
机の位置を変えたので
セミナーが終わってから、元の位置に机の位置を戻す作業をしているとき
管理人のような人が入ってきて言った

 

「ちゃんと、元に位置に戻してってよ、いい加減か片づけだと
怒られるのは、私なんだからね」

 

私が怒られるから、あんた達、チャンとやってよ
とは、ものすごく印象的であり
いやな印象を持った言葉であった

 

日本の役人、あるいは役人のような人たち
彼らの根深い悪しきものを、見たような気がした

 

今日の台風は
少なくとも刈谷では、小雨程度で何ともなかった
空の雲が、少しだけ仰々しくって

 

 

それだけだった

 

いずれにしても良かった良かった

 

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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