谷 好通コラム

2003年04月07日(月曜日)

682話 世の中甘くない

久しぶりに、こんな疲労感を覚えている
3時間半の新幹線の中
サーキットの強い日差しに顔が火照ったのか
列車の中が暑く感じる

 

今年初めてのジュニア耐久レースが終わった
忙しさと、不運と
慣れによる気の緩みもあって
まったくの準備不足のままでのレースであった

 

昨日の夜10時過ぎに小郡に着いて
今朝、6時45分にホテルロビーに集合
軽く食事をしていると
昨日深夜2時過ぎにやっとホテルにたどり着いたという
ホームページのAdDipperの星野夫婦が挨拶にこられた
4時間ほどしか寝ていないはず

 

わざわざ東京から応援に来てくれたのだ
ありがたいことである

 

「谷」「吉田」「畠中」の3人でサーキットに向かう

 

MINEサーキットに7時半に着いてしまった
チームの人と挨拶をしているうちに
早速、車検
レースの車検とは
車の安全と、規定に違反して過剰な改造がされていないかどうかをチェック
それと同時に
ドライバーのライセンスと
レーシングスーツ、ヘルメットなど装備品が規定通りかどうかをチェック

 

ライセンスのチェックである
畠中は、ライセンスの仮カードも持っていない
領収書だけだ、大丈夫か?
ハラハラしたが
あっけなくOKになってしまった
(こんなことでいいのか)
誓約書を書かされる畠中

 

 

車検が終わると予選まで3時間ある
あの3時間、何をやっていたのだろう
今、思い出そうとしても、思い出せない
みんなで話をしたり、ヘラヘラと笑ったり、ボォーッしたり
気持ちの底で、それでも緊張していたのか
何をやっていたのか思い出せない

 

羽田で買ったおもちゃで遊ぶAdDipperの星野さん

 

 

予選である

 

1本目は畠中
スタートポジションは、チームの中の誰か一人のベストラップで決まるので
タイムアタックは、チームのベストドライバー畠中に託す
彼に与えられたのはコースイン・アウト含めて5周
タイムアタックはわずか3周
タイヤは今年からの新タイプだ
(かなりグリップがいいと評判である

 

1分45秒5
まあまあである
11台中4位
上位の3台はシビックであり
しかも、そのうち2台はGTクラス
改造範囲がまるっきり違う別格車、5~7秒ぐらいの差がある
そしてもう1台のシビックは、チームメイトの37番
車の性能的に2秒ぐらいは違う
テツ清水、山本、田中さんのチームである

 

我がキーパーレビンの4位は順当なポジションであった

 

 

2本目は「谷」
私に与えられた任務は
レースペースで初めっから走り、「練習」をしてくるというもの
タイムアタックはしなくていい(畠中以上のタイムを出せっこない)

 

もう一つの目的は
燃費を測ること
レースペースでそれなりの周回を走って、燃料使用量を測る
実は昨日のテスト走行で、異常に燃費が悪かったのだそうだ
1周1リットルも食っていて
その原因が、マニホールドからのガス漏れらしいと修理したのだが
その結果がどうなったのか、時間切れで昨日はテスト出来ず
今日の予選でやることになっていたのだそうだ

 

私の練習ついでにちょうどいい
コースイン、アウト含めて8周走った
ベストタイムは、1分48秒1
耐久のレースペースなので、8000回転までにおさえて走った
久しぶりに、まとまった周回を走ったことも考え合わせると
可もなく不可もなく、まぁまぁである

 

そして、吉田はというと、結局予選を走らなかった

 

「どうせ、ぶっつけ本番なんですから
決勝レースだけに集中したいんです。」と
訳の分からないことを言っている

 

前回練習に来たときに、エンジンをオーバーレブさせて
壊してしまっているので
この予選でまたやってしまったら、レースをふち壊しにしてしまう
きっとそんな風に考えたのであろう
あるいは、本当に本人の言う通りなのか
いずれにしても吉田は
究極のぶっつけ本番、いきなり決勝レースで行くことになった

 

そして気になる燃費の結果は
「大丈夫」であった
谷・畠中合わせて(コースイン、アウト4周含めて)全部で12周に
ガソリン消費量は9リットル
ばっちりである
1周1リットルでは、2回の給油では走りきれず
作戦を変える必要があって
入賞の目が消えてしまうところであった

 

とりあえず
燃費もOK!
スタートポジションもOK!
私の練習も土壇場で、少しだけ出来た!
吉田は吉田で、自分で納得して自分を追い込み、集中している

 

準備OK!

 

というものの
今日のレーススケジュールでは
予選が終わってから、わずか45分後に決勝スタートなのだ
一安心するまもなく

 

自分の気を集中させていかねばならない
スタートドライバーは私なのだ

 

握り飯を一個食べる
トイレに行く
そして椅子に座って、だんだん自分にこもっていく

 

一番ピリピリする時間だ
そんな時、たまたま初めて応援に来てくれていた我が息子に
イライラをぶつけてしまった
わざわざ来てくれる気になったのに、悪いことをしてしまった

 

でも、もう時間が無い
一気に気を集中して、ヘルメットをかぶって車に乗り込む
車のシートに座ってしまうと
かえって気が落ち着く

 

エンジンをかけてコースイン
エンジン音をバオンバオンとたててコースに入っていくときは
しびれる瞬間である

 

新品タイヤの皮を剥かなければならないので
ハンドルを大きく左右に振りながら、蛇行してコースを進む
コース半ばで皮が剥け
ハンドルに手ごたえが出てくる

 

1周回って、スターティンググリットに並ぶ
みんなが近寄ってきてくれて、励ましの言葉をかけてくれたり
記念写真を撮ったり
楽しい時間

 

 

しかし、そんな時間はあっという間に過ぎて
コースにはドライバーだけが取り残される
3分前
1分前、エンジンスタート
30秒前
クリーンフラッグが振られて、フォーメーションラップスタート
スタートポジションどおりに隊列を組んで、コースを1周回る

 

メインスタンド前に来るとペースカーが引っ込み
いよいよスタート
ローリングスタートだ
スタートラインを超すまで前の車を抜かせない
だから、先頭の車は
スピードをちょっと落としたりして、後ろの車をじらす
しかし、今回の先頭車は
スタートラインかなり手前でいきなりフルスロットル
あっけないスタートであった

 

私は、我が25番キーパーレビンを
ポジションどおりの4番手で1コーナーをパスすることが出来た
しかし、そのあと意外なことが

 

前の3台は、私より別格に早いはず
なのに、その3台に私は着いて行けているのだ
1周目
2周目
3周目と、
ばかッ早い50番GTシビック
型遅れながらやはりGTシビックの21番
そして、師匠テツ清水の37番シビック・Nクラスカー
私の25番キーパーレビン
この4台が、ダンゴになって、周回を重ねる
「ウッソ~」
タイムは、1分47秒台

 

 

速い3台がポジション争いの小競り合いをしながら
少しタイムを落として走っている
私は、それに引っ張られる形で、とりあえず一緒に団子になっているのだ
もちろん一番後ろのダンゴではあるが

 

「ピットは盛り上がっているだろうなぁ~」などと
夢見心地で走っていれば
やはり、徐々に離されていく

 

それでも、10周目ぐらいまで前の車がはっきり視界の中にあった
いい調子である

 

しかし、世の中そんなに甘くない
10周を越すぐらいから、ハンドルが切れなくなってきた
アンダーステアだ
小さいコーナーで、いくらハンドルを切っても
車の頭がコーナーの中に入らず
外へ外へと行きたがるようになった
無理にハンドルを裡に回せば
“ゴリゴリゴリ”っとタイヤが“こじる音”がする
そんな音が鳴るときは、タイヤが傷むだけで、やはり車は回っていかない

 

やれることは、アンダーステアが出ないように
コーナー手前で思いっきりスピードを落とすだけ
エンジンの回転も思いっきり落ちてしまうので、立ち上がりも最低だ

 

タイムは、一挙に3秒近く落ちてしまい
50秒台まで出てしまう始末

 


(原因は車のトラブルではない
今年からの新タイプタイヤのグリップ特性が
後輪に出てしまい、前輪のグリップが後輪に負けてしまったのが原因のようだ
あとの2人、吉田、畠中も同じようなことを言っていた)

 

 

しかし、やるべきことは、落ち着いて周回を重ねるだけ

 

泣きたくなるぐらい言うことを聞かなくなった車をあやしながら
私のノルマ25周を走りきった

 

無事走りきった
走りきった後は
これ以上は無い充足感と
これからの展開へのワクワクとが混じって

 

これが幸せなのだ、と、ぐったりする

 

(ここから先は、家に帰ってから書いたもの)

 

この先どうなるか
今日の二番手ドライバー「吉田」がもう書いてしまった

 

(ここで「グリットコラム“泣けた!”」を読んでください。)

 

がんばって、がんばって
掴みかけた総合2位
あと4周で、あとたった4周で
無念のエンジントラブル

 

泣けた
目から涙が止まらなかった
悔しいという気持ちとは少し違っていた
悲しいという気持ちとも違っていた

 

そう、感動して出てきた涙であったのだろう
不思議だが
娘の結婚式のことを書いていたときに止まらなくなった涙に似ている

 

レースはたかが遊びである
でも、なぜか感動している

 

しかし、レースはそんなに簡単には勝てないのだ
世の中甘くない、ということか

 

 

今回のレース
我がチームは畠中が監督として作戦を練った

 

 

シンプル イズ ベスト

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    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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