谷 好通コラム

2003年11月18日(火曜日)

837話 現場主義の強み

名古屋市の南にある小都市での出来事
そこはバイパスのインターチェンジ脇
出口に近いところに、とあるガソリンスタンドがある
敷地面積380坪で外資系のセルフ、燃料の出荷量500kl以上
しかし、毎度の価格競争で燃料油の口銭は5円以下
出荷実績はすばらしいが
決して楽な経営ではない

 

そんな店舗の隣の土地が“貸地”に出た
面積は同じ380坪

 

このスタンドの経営者Sさんは、名古屋市内で2箇所の「快洗隊」を運営している
快洗隊の魅力もよくご存知で
この新しく貸地として出た隣地を快洗隊にしようと
早速、動いた

 

地主さんの出してきて条件は、坪当たり1300円/月
380坪で494,000円/月である
名古屋市近郊であることを考えると、相場的には少し高いがマァマァの条件
これなら交渉の余地はあると考え
Sさんは不動産屋さんを通じて地主さんにアポイントメントを申し出た

 

そして2.3日後
地主さんから思わぬ返答が来た
「“セブンイレブン”が来て、坪2500円/月で借りたいと言ってきた」
だそうだ
なんと、セブンイレブンは相場に対して倍近い単価で指値(さしね)をしてきたのだ
とすると、380坪で950,000円/月

 

Sさんはその時点で完全に戦意を喪失した

 

ついこの間まで、中部圏にはセブンイレブンはほとんど無かった
その代わり、地元のユニーグループのコンビニ「サークルK」が
高いシェアを持っている
他の地域では
コンビニと言えば「セブンイレブン」であって、「サークルK」なんて知らない
それが普通であるが
私たちの地域では
コンビニと言えば「サークルK」であって、「セブンイレブン」ってなんだ?
だったのである

 

そのセブンイレブンが、とうとう中部地区に進出を決意し
今では出店ラッシュだ
本格的に進出するとなれば
ある程度の店数がまとまらなくては
「商品のデリバリー」「宣伝広告の効果」などスケールメリットが効く部分で
無駄が多くなってしまう

 

だから相当に無理をしてまで
たとえば今回のように
立地がいいと判断すれば
相場の2倍で指値してくるなど、強引に出店しているようだ

 

それにしても周りのコンビニがだらしない
セブンイレブンが出店すると分かると
さっさと閉店してしまう店が続出しているのだ
「サークルK」「ローソン」などなど
彼らは、それほどまでに「セブンイレブン」の強さをよく知っているということか
確かに、数あるコンビニブランドの中で「セブンイレブン」は
スバ抜けた実績を持っている

 

と言うより、私たち消費者が
セブンイレブンの品揃えの魅力をよく知っている
とりわけ“弁当”はうまい

 

セブンイレブンの弁当といえば有名な話がある

 

セブンイレブンの弁当は
社長が必ず試食して、「これならいい」と言わなくては店頭に並ばない
というもの

 

社長自ら、弁当の味を確認している
だから、セブンイレブンの弁当はうまいのだ
セブンイレブンで買った弁当を食べるということは
社長が食べた味と同じ味を自分も味わえるということ

 

これは話だけではなく、実際にそうらしい
私も実際にセブンイレブンの社長が弁当を食べている場面をテレビで見たことがある

 

これは多くの意味を持っている
弁当はコンビニの一番の売れ筋商品であって
利益率も高く
これが多く売れるかどうかで、コンビニの収支に大きく影響する要素だ

 

弁当は食べ物なので
同じものばかりではすぐに飽きてしまう
常に新しい弁当を開発して、商品としての新鮮さを作り出していかねばならない
そういう意味で、新しい弁当の開発は非常に大切なセクションである
どのコンビニも真剣に開発するが
それがずっと続いていくわけなので
いつか、つい見た目の新しさだとか、パッケージに奇をてらった物とか
一番肝心な味をそっちに置いたような、安易なものも出てくるだろう
しかし
セブンイレブンの弁当は、すべて社長の舌を納得させたものしか合格させない
商品間開発担当にとって
これは、大きなプレッシャーになるし
決して、手を抜いた安易な開発など出来ず
いい緊張感を維持することが出来る

 

これは、製造部門における品質管理にも同じ効果をもたらす

 

加えて
たかが弁当であるが
それを社長自ら試食して確認するほど、セブンイレブンは弁当の味にこだわっている
そう世間にアピールすることになり
これは、銭金に換算できないほどの宣伝効果を得ることが出来る

 

社長が自分の会社が作って売っているものを、自分で食べている
たったこれだけのことが
会社全体に与える計り知れないほど大きな影響力を持っている

 

自分の会社が作ったものを必ず食べる
これはある意味で現場主義ということなのだろう

 

ある商品について言えば
お客様が、店内の陳列台でその商品を見て、どう見えるか
それを手に取ろうとしたとき、どう感じるのか
それを買って家に帰り、あるいは車の中でそれを食べたとき
その人にとってうまいのか、まずいのか
そして、それを何度も食べたらどうなのか、いつ飽きるのか
飽きたら、次はどんなものを欲しがるようになるのか

 

ひとつの商品について考えることは、ものすごくたくさんある
そして肝心なのは
すべての思考をお客様の思考で考えることが出来るかどうか

 

売る側の思考パターンで考えても
それは何の意味も持たない
買う側の思考パターンで考えることができて、初めて意味を持つもの

 

売る側の論理は、買う側にとって一切関係のないことであって
買う側は、自分自身の都合と
自身の好き嫌いだけでものを買い、食べ、使う
その意味で買う側というものは、究極のわがままな存在なのである

 

だから
売る側が、売りたいと思うのならば
自らが買う側になって
実際に買い、食べ、使ってみなければ
そして、買った側、食べた側の気持ちでそれを評価できなければ
何が売れるのか、つまり、何がどうあれば“買う側が買う”のかが分からない

 

それが分からなければ、つまり何を“買う側が買う”のか分からなければ
売れない
商売の源は、すべて“買う側”にある

 

では、私たちの洗車サービスという商売についてはどうだろうか
買う側に選択され
買われる商品であるかどうかを第一にしているだろうか
ぜひ、我が身を省みることが必要ではないだろうか

 

アイ・タック技研の提供する商品について
私たちはこの現場主義を貫いている

 

KeePreを発売してから早10年になる
その間、私たちは数限りなくスクールを開き
昨年は、スクールへの参加者が1年で一万人を超した

 

なぜこんなにスクールを積極的に開いているか
その理由は
KeePreは、それなりの技術を持ってコーティングされることによって
初めて本来の効果を持つことが出来る
だから、正しい技術をより多くの方々に身に付けていただくことが
KeePreを活かす方法だと考えているからである
だから、日本全国のどこかでほぼ毎日何らかのスクールが開かれている

 

実際の、お客様と直接接する現場で
KeePreは使われている
だから、その現場の力を付けていただくことが
お客様にとって、ひいてはKeePreにとって一番いいことなのだ
こういうことが
KeePreを10年もの間、ベストセラーにしていただいている根源であると考えている

 

現場主義は商品開発においても、一層大切にされている
ひとつのケミカル、あるいは機械を開発するに当たって
開発のためのテストは繰り返し繰り返し行われるが
それは、実験室の中でのテストだけではない
また、開発部による実車に対するテストだけではない
そこまでは、ただ単なる机上のテストと変わりがないのだ
肝心なのは
実際のお客様の車に対して
実際の商売として、そのケミカル、あるいは機械が使われたとき
どうなのか
実際に通用するものなのか、ということである

 

幸いにも私たちは「快洗隊」の直営店を持っている
そこで実際に、サービスとして販売して通用することが確認できなければ
もう一度開発部に戻される
あるいは、改善要求を出してもらい
十分に改善してからしか、製品化しない

 

もちろん、実際の商売に使用するわけなので
相手は大切なお客様
決して実験台にしているわけではない
自分たちの会社の車、代車などをお客様のお車と想定して
十分に吟味した上で
自信を持ってお客様の車にも使用する

 

しかし、実際にお客様の車に使用し始めると
ありとあらゆる車の状態に遭遇するわけで
びっくりするような経験をすることもある
あるいは、考えていたこととは全く別の結果が出ることもある
よほど準備万端で使い始めた物でもそうだ

 

それは、施工方法についても言える
何種類かの車に限定してテストを繰り返しても、実際の千差万別の車に接すると
施工マニュアルも根本的に考え直す必要がある場合もある

 

実際と机上では、結果が全く違うことがあるように
ありとあらゆる場合を想定したつもりのテストを繰り返しても
実際にお客様の車を相手にすると、想定外のことが必ず出てくる

 

「快洗Taoる」などは、何十種類のタオルが快洗隊に持ち込まれ
その度に、ダメを打たれて
開発になんと一年もかかってしまった
そのころには、快洗隊にはダメであったタオルが何千枚にもなっていた
「タイヤキーパー」についても、同様のことがあった
「アクア・キーパー」でも、その施工方法について
やればやるだけ判らなくなって来て、途中で放り出しそうになったこともあった
これもテストに一年以上をかけている
もちろん快洗隊でも、現在、活発に販売され、施工され
多くのお客様に喜んでいただけることを確信しての発売である

 

そうやって、やっと作り上げたものばかり
私たちは、快洗隊があって
実際に力を持った現場があって
はじめて自信を持った商品を世に送り出すことが出来ている

 

考えてみれば、これだけ恵まれた開発環境はなかなかないだろう
逆に言えば
現場を持っていないメーカーは
どうやって、商品を開発しているのだろう

 

現場で通用しないものは
商品として、やっぱりダメなものであろう

 

今は広島のホテル

 

今日朝一番で熊本入り
熊本から福岡へ走る途中で
これぞ“秋”という雲を見た

 

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    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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