谷 好通コラム

2004年02月14日(土曜日)

891話 ブロイラー的気分

3日前
北九州に行った時
面白いラーメン屋さんに行った

 

ものすごいこだわりを持ったラーメン屋さんであると言う

 

まず、店外でラーメンの食券を買う

 

店の中に入ると、異様な風景に驚く
一人分ずつ目隠しが付いたカウンターが、何列も並んでいるのだ
椅子は固定してあって動かない

 

 

座ると、目の前にはノレンがかかっていて
カウンターの向こうは見えない
チョッとした個室のような状態

 

そこに座ると、目の前にアンケート用紙のようなものとボールペンが置いてある
アンケートではない
自分の好みを書く用紙だ
「麺のゆで方は、硬い方が好きか、普通科、柔らかい方が良いか」
「ネギは、白い根っこの方か、先の方の青いところが好きか」
「カラシの入った秘伝のたれは多い方が良いか、普通科、少な目の方が良いか」
などなど7~8項目にわたって書き込まなければいけない

 

 

それを書き込んだら、ボタンを押す
そうすると、係りの人がその用紙を回収していく
ノレンで係りの人の顔は見えない

 

ラーメンを待つ間に
ノレンに書いてあるここのラーメンの食べ方を読む

 

 

親切と言えば、親切だが
押し付けがましいと言えば、押し付けがましい

 

やがて、ラーメンがやってくる
(ちょっと箸をつけてから撮った写真です)

 

 

ラーメンが出ると、カウンターの向こう側に少しだけ開いていた隙間も
スノコのようなものが降ろされて遮断される
これで、目の前も、左右も遮断されて
ラーメンを食べるだけに集中することになる
黙々と食べる

 

 

左右と前の視界を遮断されて、黙々と食べる
これって
ブロイラーがエサ食ってるのと一緒じゃん

 

ラーメンは、変わった味で
私の好みとしては、うまいっ!とは思わなかったけど
クセになりそうな味ではあった
ちなみに、スープまで全部飲んだ

 

ただ、私的にはブロイラーの気分になるのは好きになれない

 

 

一昨日、ベンチャーキャピタルの方と2社お会いした

 

私は昔から「株」を全くやった事がなく
「株」に対する知識はまったくといっていいほど無い
だから、最初は
株を買うのとは逆の株式上場の話についても、さっぱり分からなかったが
話を伺えば、伺うほど
会社が大きくなっていくためには
「株」が資本主義社会の便利な仕組みであることに感心した

 

ベンチャーキャピタルとは
これから成長するであろう企業を見つけて
その会社が本当に行けるかどうか厳しい審査の上、投資をする
一千万円単位でその会社の株式をプレミアを付けて買うのだ

 

 

たとえば、ある会社が現在、資本金3,000万円であったとする
一株の券面(以前の言い方で額面)が5万円で600株
そして
内部留保などの蓄積があって自己資本が
合計6,000万円あるとすると
一株あたり10万円の価値がある

 

ベンチーキャピタルは、その会社の将来性を見込んで
さらにプレミアを付け
たとえば、一株を25万円であると査定し
第三者割り増し増資を通じて
券面1,000万円分、つまり200株を、5,000万円で買うのだ

 

そうすると
その会社の資本金は合計3,000万円+1,000万円=4,000万円となるが
実際には、1000万円の増資分プラス4,000万円の資金調達が出来たことになる

 

しかも、この資金は投資であって“借金ではない”
だから、投資を受けた会社としては、もう返す必要はないのだ
返済しなくてもよいのである

 

この第三者割り増し増資の時に
会社の社員も、「持ち株会」を作って会社の株を一部取得することがある
その時の株価は
その会社の株が持っているその時点での価値=時価
この場合、券面5万円の株を10万円/1株で良いのだ
(会社との合意があっての話だが)

 

たとえば
そのような資金を使って会社が何年かかかってドンドン大きくなって
上場する力がついて来ると
厳しい会計監査を通って
いよいよ株式上場となると

 

公開時の株価は、券面の20倍になる事もまれではない
つまり20倍とは
5万円の券面の一株が、公開時には100万円の値段が付くのだ

 

ベンチャーキャピタルはここで株を売却して大きな利益を得る
券面1,000万円分の株、200株を5,000万円で買った株を
全部売ったとしたら
2億円で売ることになる
5,000万円で買った株が2億円!
すごい利益率である
これをキャピタルゲインという

 

もっとすごいのが、持ち株会で会社の株をその時の時価で買った社員たち
1株10万円が、100万円で売れることになる
10株100万円買った人で、1000万円
100株1000万円分買った人は、1億円

 

以前、YAHOOのソフトバンクが上場したとき
億万長者のOLや若者が続出した事がニュースになっていた
しかも、これは創業者利益と言って
所得税の対象から外れると聞いた
いわゆる、丸儲け

 

ホントにそんなうまい話があるものか?
そう、滅多にあるものではない

 

ベンチャーキャピタルは
ベテランの投資マンが投資先を厳しい基準で選択する
だからベンチャーキャピタルが吟味して投資をうけた企業は
それだけで社会的信用が上がるものだそうだ

 

そんな、選ばれた企業でも
上場に漕ぎ付けることが出来るのは
10社あって1社まではないという

 

(キャピタルから投資を受けた=上場)ではない
投資先が上場した時の利益は莫大なものだが
その確率は、思ったより低いものであり
ベンチャーキャピルも、そう楽な商売ではなさそうである

 

株式上場とは、とんでもなく厳しい道なのである
ベンチャーキャピタルも、そんなにぼろ儲けの商売ではないのだ

 

ベンチャーキャピタルから投資を受けた会社は
キャピタルから、上場に向けていやというほど干渉を受けることになる
キャピタルとしては
投資した企業が上場しなければ利益が入ってこないのだから
何とかして上場できる力をその会社につけさせようとするのだ

 

上場の基準に達するように、厳しく経営内容をチェックし
いい加減な経営を許さない
時には営業の応援すらする
キャピタルは全力を挙げてその会社を大きくしようとかかるのだ
これは、いい意味で言えば
“タダで”優秀な経営コンサルタントを得たということにもなる
このメリットは大きい

 

しかし
中小企業の大半は個人オーナーの会社であり
個人の持ち物のような会社である
そんな会社では、社長の個人営業と本質的には変わらない
それが、ベンチャーキャピタルなどの他人の資本が入ってくると
そうは行かない
客観的に経営が見られ
社長が望む、望まないに関わらず
会社を確実に成長させる方向に、大きく舵を切ることになる

 

極端に言えば
会社が個人から社会のものになったということ

 

彼らの言うことを聞いていると
あらためて、会社というものが
個人の人格ではなく、法人という社会の人格を持った物であると感じる

 

しかし、キャピタルからの投資を受ける事がプラスになることばかりではない
上記のように、会社は成長一本槍のような経営の方向を持つことを要求される
だから、自分たちが会社を興したときの理想とか
経営のポリシーが会社の中で風化してしまう恐れもあるのだ

 

会社をやっている意味は
ただ単に大きくするためではない
ちゃんと会社としての目的があって、みんながその方向へ向かっていくから
みんなの力が集まって、大きな力になっているものだ
会社は、社会的な存在意義を持つべく大きな目的を持っている
アイ・タック技研?で言えば
「日本に新しい洗車文化を」である

 

私たちはブロイラーではない
大きくなるためだけにエサを食べ続けさせられるブロイラーではない
その辺をしっかりと持ち続けなければ
ベンチャーキャピタルからの投資を受ける意義が、本末転倒になってしまう

 

しかし、逆に言えば
大きくなることばかりに目を取られて
社会的な意義を忘れてしまうと
社会から必要とされなくなり、逆に、会社が大きくなっていくことは無くなる
利益一辺倒の経営は、逆に、社会から認められない経営なのだ

 

自らの存在意義を、しっかりと自分自身の真ん中に据えた上で
手段として
ベンチャーキャピタルの投資を受け
目的としてではなく
手段として、あるいは1つの目標として
株式の上場が
大変困難な末に、高いところに存在している

 

その意識をきちんと持てるかどうか
それが、一番大きな問題であるのであろう

 

その部分がいい加減だと
私たちは、ひたすら大きくなるためだけに働き続けることになり
ブロイラーと一緒になってしまう
私はブロイラー気分で人生を送りたくない

 

のびのびと生きて行きたい

 

だから
そのために
大変便利な資本主義社会の仕組みとして
ベンチャーキャピタルは有意義な存在であって
株式の上場は
更なるジャンプのための“チャンス”であると考えるべきであるのだろう

 

自分と会社が本来持っている目的を見失って
上場そのものが目的になった時
自分はブロイラーになってしまう
そんな気がする

 


名古屋駅前に安売りで有名な「ビックカメラ」が出来た
新幹線に乗るまでにちょっと時間があったので
前から欲しかったワイドコンバーションレンズを買ったのだ
1万円ちょっと
それを着けてはじめて富士山を取った
その内もっとちゃんと取れるようになれるか

 

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    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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