2004年08月09日(月曜日)
999話? 暗闇の野獣達
この話は、24時間レースの最中に書いたもので、名古屋に帰ってきてからアップしたものです。
レースの結果は、「完走!」37台中28位。
あまりもの疲れと興奮と動揺で、決勝が終わった夜は何も書けず、
先に、レース中に書いた話をアップします。
というわけで、8月8日の夜に予定していた1000話は、この後、落ち着いて書くことにします。)
今、十勝24時間レースの真っ最中
スタートしてから13時間が経とうとしている、8月8日午前4時
そろそろ空が白みかけてくる。
今、走っているのは田中選手、次は畠中が出番を待っている
私はまだスタートで1時間走っただけで、
私の次の出番はその畠中の後、午前6時半ぐらいからになるだろう。
そのころには、すっかり夜が明けている。
結局、本番レースでの夜間走行の出番はない。
話はさかのぼって
本番の前日、ナイトセッションの練習で、私は初めて夜間のサーキットを走った。
ナイトセッションは本数が少ないので、
ほとんど全車出てきて本番さながらの様相であった。
その日の昼間のフリー走行で、
キーパーインテグラはセットアップが進んで乗りやすくなっていた、
田中選手と石川選手のおかげである。
それで、私も初めて35秒台を出せて、気分が良かったので
夜間走行にも期待を持っていたのだった。
そして
初めて経験するサーキットでの夜間走行は、
1回目わずか5周程度であった。
しかし・・・・
結果、私にとってのこの初体験は“恐怖”そのものとなった。
走っていても、自分がどこを走っているのかさっぱり解からない。
ヘッドライトに照らされた目の前しか見えないのだ。
夜間走行は照明が強力であるかどうかが大きい。
キーパーインテグラは24時間耐久用に
強力なHIDのヘッドライトと、同じくHIDの強いフォグランプを装備した。
しかし私はこの時、ロービームでフォグランプ無しの状態で乗ってしまったのだ。
目の前しか見えなかったわけだ。
レースカーの照明に、ローピームとハイビームがある事を知らなかったし、
フォグランプは自分でスイッチを入れなければ点灯しないことを知らなかった。
ピットの人達も、
フォグが、ヘッドのライト・オンとは別にスイッチオンしないと点灯しないことに
気がつかなかったようだ。
そんなわけで、私のサーキットでの夜間レース走行初体験は
恐怖のロービーム走行となったわけだ。
練習のナイトセッションは1時間を4人で走るのだが、私は2人目に走った。
「見えないっ、ぜんぜん見えない。怖い!なんと恐ろしい」
車から降りてきた私は恐怖のかたまりとなっていた。
しかし、その原因のひとつがロービームだけで走ったことを知ったので、
4人目最後に走っていた田中選手に無線で頼み、早めに帰ってきてもらって
もう一度私に、わずかでも走らせてもらうことにした。
恐怖は恐怖のままにしておくと、体に染み付いてしまう。
このまま、恐怖のカタマリになっていたのでは
24時間耐久ならではの本番の夜間走行が出来ない。
何とか慣れておきたいと思った。
今度はキチンと
ハイビームにして、出走前にフォグランプがついたことを確認して出て行った。
最初に走ったときに比べれば、はるかに良くなった。
しかし、
それにしたって昼間のように見えるわけではない。
暗闇の中を前方の限られた視界だけで、
コーナー手前まで全開で突っ込み、フルブレーキをかけ
クリップポイントチョイ前からまたアクセル全開で行くには、かなりの気合がいる。
怖さを克服するには、恐怖に縮み上がる気持ちをぶった切って飛び込むしかない。
歯を食いしばって、アクセルに力を入れる。
しかし、
もっと恐怖心を掻き立てるのは、
背後から煌々とライトを光らせて襲い掛かってくる奴等の事だ。
プロのレーサー達、
彼らは昼間も夜も全く関係ないかのように、
アクセルペダルをべったりと踏みつけ、パワー全開でサーキットを駆け抜ける。
そして、
前を行く遅い獲物に容赦なしに襲い掛かっていく。
この十勝24時間耐久レースには、
日本の代表的な有名レーサーが軒並み出場していて、
彼らは、自らに与えられている特別なポジションと待遇と名声が、
人並みはずれて“速い”ことにのみに掛かっている事を、
よく知っていて、
遅いものに襲い掛かり、後に蹴散らすことに、全くの躊躇をしない。
そんな中に、初めて暗闇の中に飛び込み、
HIDのハイビームとフォグを得て、
なまじっかもう少し速いタイムを出したいと思って必死になって
化け物のような車を、不器用に操るおっさんレーサーなどひとたまりもない。
私は、彼らにとっては
ただの獲物なのであろう。
そんな恐怖を乗り越える為に、
悲愴な気持ちで、2度目の夜間走行の為にコースに飛び出して行った私は、
もっと、さらにきつい襲撃を受けることになった。
絶叫しながら手に入れた夜間走行初体験のタイムは、
ベストで1分40秒。
車を降りてきた私は、
自分が、情けなくて、
悔しくて、
惨めで、
恥ずかしくて、
怖いくて、
興奮も手伝って、涙が出てしまった。
24時間耐久に出場なんて、
「なんと大それたことをしてしまったのだ。」
と、恐怖と、悔しさの中で、落ち込んでしまった本番前夜であった。
そして本番
夜間走行を、とても平常心を持って走れそうになかった私は、
田中選手兼監督の配慮で、
夜間走行を免除してもらったようだ。
そして、今、その暗闇の中を、野獣と化したドライバーたちが、
サーキットの中を走り回っている。
撮影:グリット・吉田君
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