谷 好通コラム

2004年12月13日(月曜日)

1075.上海蟹が美味い訳

久しぶりにBANDOの夜景を見た。
上海に来たならば、一番のクライマックスはやはりBANDOである。

 

約二年前に上海に通い始めた頃は、
必ず一度はBANDOに来て、その夜景に感動したものだが、
いつの間にか、仕事のスケジュールをぎっしりと詰めるようになって、
すっかりBANDOのことを忘れていた。

 

BANDOとは、
海に長江が注ぎ込む河口あたりに広がる新旧の中国の象徴的する光景。

 

川の西側には、
中国の負の歴史、植民地時代の侵略者たちである
イギリス、フランス、オランダ、スペイン、ポルトガル等などが作った石造りの建物が、
川沿いに並び、
それぞれが銀行であったり商社であったり、
中国の巨大な富をむさぼった欧州の植民地支配の歴史的建物だ。
昔の中国の象徴

 

 

そして、その対岸東側には、近代中国の象徴である超高層ビル群。
上海タワーを中心に近未来的な風景を作り出している。
長江を挟んで、西と東、
昔の中国の支配者たちの建物と、
自立した現代の中国の未来を思わせる圧倒的なビル群、
その対照的な風景が、中国そのものを表しているようだ。

 

 

暗黒の文化大革命の時代が終わって、
時の指導者“?小平”が、
開放策をもって中国の近代化を一挙に繰り広げようとした時、
まず、その象徴として、未開の地であった浦東に“上海タワー”を建てた。
最初に上海タワーが建って、
その巨大な雄姿に、中国の人民は近代化を現実のものとして見たのだろう。

 

旧世界の対岸に突如出現した上海タワー
それはテレビ塔でもあった。
テレビとは、その当時一番の情報伝達の手段であった。
つまり、開放政策は、
まず真っ先に開かれた情報伝達手段の構築から始まったわけだ。

 

開かれた経済とは、
まず情報公開から始まり、
人々が世界を正しく知り、
一人一人が、自らの存在の可能性の大きさに目覚める所から始まったのだ。

 

そして、対岸の古い負の歴史である租界時代の建造物すら、
新しい中国の引き立て役として使い切ってしまった。
イルミネーションでライトアップし、壮大なエンターテイメントとしてしまったのは、
古い中国時代の恨みを吹っ切ったという意思表示でもある。

 

私の大好きなBandoは、
ちょっと煙っていて、あまりすっきりとは見えなかったが、
一緒に行った柴田さんにも、松永さんにも、感動してもらえたようで、
うれしかった。

 

Bandoを腹いっぱい見て、
そのすぐ近くにある「Peace hotel、和平飯店」にジャズを聴きに行った。
和平飯店のオールドジャズは、
映画「上海バンスキン」の中の舞台となり有名だ。
ジャズ好きの私としては、
このjazz倶楽部に一度行って見たかったのだが、まだ一度も行っていなかった。
(この上の階にあるバーには行ったが)
jazz倶楽部は
柴田さんとかの同年輩の人と一緒でないと、入りにくいものがあったのだ。
絶好のこの機会を逃す手はない。
松永さん・柴田さん達、みんなを誘って和平飯店jazz倶楽部に入る。

 

 

60歳台、あるいは70歳台ではないかと思えるようなオジサン、
というよりオジイサンが、ポチポチと昔懐かしいjazzを奏でていた。
これは、オールドjazzと言うより、オールドマンjazzである。
心を癒されるようなjazzを聴きながら、
塩味の効いたピーナッツをつまみにウィスキーのロックが美味かった。

 

 

翌11日は遊びである。
仕事をまったく入れずに車聖の任さんと一緒に遊ぶことにしていた。
と言いつつも、集合場所の上海の快洗隊で、
かなの長い時間仕事の話をしてしまったのは、お互い仕事好きのせい?

 

吹っ切って、昼から遊ぶ。
まず射撃だ。
この射撃場はちょっといただけなかった。
まったくスポーツのレベルではなく、怪しいものであったのだ。
腱鞘炎の左の人差し指が腫れ上がっただけ。

 

それではと夕方から
この日のメインイベント“上海蟹”である。

 

何度か上海蟹は食べたことがある。
今まででは、上海の快洗隊のすぐ近くのレストランで食べた上海蟹が最高で、
特にタレが美味く、上海蟹とはタレとのコンビネーションの美味さなのだと思っていた。これがまた絶品なのである。
そのレストランに連れて行ってくれたのも車聖の任さん。
その任さんが、
「本当に美味い上海蟹はこんなものではない。
それは上海市内では食べられない、今度連れて行ってあげるよ、半日がかりで。」

 

そう言われていて、
蟹好きの私としては「ぜひ、お願いします。」と、
早速、今回のスケジュールを作ってしまったのだ。
だから今回は、言ってみれば「上海蟹ツアー」でもあったのだった。

 

任さんが言う“一番美味い上海蟹”とは、
上海蟹の産地の湖(昆山の近くの何とかと言う湖)にまで行って、
取ったばかりの上海蟹を、湖の近くの料理屋さんで食べると言うもの。

 

一緒に行ったのは、全部で七名。
任さん、任さんのお連れ、崔さん、柴田さん、松永さん、私、李さん。
任さんは特別に7人乗りのミニバンを調達してきてくれた。
目的地までに、上海市内から高速道路を使って1時間半ぐらいかかる。

 

七名乗りのミニバンに七名乗ると、後席の三名が窮屈だが、
七名の中でも細身の崔さん、李さん、松永さんを後席に押し込んで出発。
デブに類する私と柴田さんは、デンと二列目のシングル席に座る。
私は、昼飯をまともに食べ過ぎてしまったのを後悔しながらも、
ワクワクルンルンであった。

 

1時間半かかって到着したのは、
湖に作られた整備された小さな港。
その岸壁に、何十層もの漁船がつながれている。
その漁船のへさきの方に10個ぐらいの籠が付けられており、湖に沈められている。
(漁船自体はもう自走できないもののようだ。)
その籠の中に、かなりの数の上海蟹が入れられていて、
特大・大・中・小なんて感じで、籠ごとに分けられている。
この蟹を客が見て、どの蟹を使って料理をしてもらうかを選ぶのだ。
値段の交渉ももちろんこの場でする。

 

私たちが選んだのは、もちろん“特大”。

 

それぞれの船は、湖岸に並ぶ蟹専門の料理屋さんの船で、
料理屋さんは、全部で350軒もあるそうだ。
ずらっと同じようなつくりの蟹専門店が並ぶ姿は威容である。
(カメラを車のトランクに入れたかばんの中に入れっぱなしで写真を撮れなかった。)

 

先ほどの船の料理屋さんは、
車聖の指定店であることを示すプレートがかけられていた。

 

蟹を食べる前に、この地の田舎料理が出される。
田舎料理といっても、それはすばらしい料理で、味付け、調理とも最高であった。
その中でも特においしかったのが、豚の角煮。
豚の三枚肉を、皮寸前のところまで分厚く切って、とことん煮込んである。
端で簡単に切れるやわらかさで、
白い脂身もたっぷりである。
とはいってもこの脂身、とことん煮込んであるので見た目ほどは脂っこくない。
それでも脂身は脂身だ。
間違いなくカロリーは高く、肥満にとっての天敵には違いない。

 

が、しかし、
肥満はこういうものが好きだから、肥満になっているのだ。

 

白く透き通った脂身が肥満たちを誘う。
たまらんのです。

 

 

大変おいしい最高の田舎料理を10品ほどみんなで食べて、
ビールもかなり飲んで、
やっと上海蟹の番である。

 

出てきた上海蟹は、オスとメス各人2匹ずつ。
それぞれがかなりデカイ特大サイズの上海蟹である。

 

 

上海蟹の正しい食べ方。
つまり、上海蟹を美味しく食べる方法を、任さんが教授する。

 

まずメスから食べる。
足を一本ずつちぎって、その両端を歯で食いちぎる。
思ったより簡単に食いちぎれた。
そして、片方から(根元の方からか先の方からか、どっちか忘れた。)
スポンと身を吸い出すのだ。
本当にスポンと足の身が口の中に飛び込んでくる。
蟹の足の肉が甘くうまい!

 

今度は、胴体の腹についている蓋みたいのをはずして、その中の身を搾り出す。
味はまぁまぁだ。
甲羅についたメスの子は(本当は脂肪)生姜を入れた紹興酒を入れて食べる。
う~ん、うまい。
絶妙のコンビネーションである。

 

次に甲羅をはずす。
はずして、「体を冷やす所」を箸で取り去る。
どの部分なのか、文字ではとても表現できないが、
とにかく、そういう部分があるのだ。
その部分だけきちんと取り去れば、どんなに蟹を食べてもお腹が痛くならないという。
その部分を「体を冷やすところ」と言うのだ。
(もちろんエラも取り去る。)

 

それから、なんと言ったらいいのか、
蟹のお尻の部分を口で噛み切るのだ。(読んでいる人は多分解らないと思うが)
そうすると、ぽっかりとお腹の中に通ずる穴が出来て、
その穴に口をつけて、
ズズズズッと“みそ”を一挙に吸い出すのである。
そうすると、
口の中に上海蟹の“みそ”が、
一挙にズズズズッ!と入ってきて、
口いっぱいに広がる。
今まで経験したことのない濃厚な甘く、濃~~~い“みそ”の味が、
口いっぱいに甘く!広がって、
上海蟹の“みそ”独特の香りが後頭部にまで広がる。
そのあまりにもの甘美なショックに、全員が黙り、目が天を泳ぐ。

 

その後、いっせいに「うっま~~~いっ!」と叫ぶのだ。

 

「この世にこんなうまい蟹があるとは思わなかった。」
そう口々に言いながら、
“みそ”にまみれた甲羅の中の肉を食べていく。
肉は肉で圧倒的にうまいのだが、
先ほどの“みそ”ショックにはかなわない。

 

さっさと食べて、
二匹目のオスの蟹に取り掛かる。

 

足をまた一本一本食べるのだが、少々まどろっこしい。
生姜を入れた紹興酒を飲みながら、
やがて、また“みそ”の吸出しのかかる。

 

ズズズズズッ!
「うわ~っ、こっちの方がもっと濃厚だ!! うっま~~~っい!!!」
“みそ”は、メスよりもオスの方が濃厚なのだ。

 

今まで食べた上海蟹は一体なんだったんだろう。
上海蟹が採れる湖のほとりで、
採れたての新鮮な上海蟹を食べるからこそ経験できる
極上の「うっま~~い」であった。

 

 

昆山での上海蟹がうまかった訳。
なんと言っても、新鮮な採れたての蟹を、その場で食べることが出来たこと。
そして、
もっと重要なことは、
その「正しい食べ方」を、教えてもらったこと。

 

上海蟹のあの天国のような“みそ”は、
正式な段取りで空けた“穴”に口をつけて、
一挙に“ズズズズスッ”とやったから、経験できたことなのだ。
あれがチビチビと舐めていたのでは、
あの脳天に染み渡るような「うっま~い」にはならなかったはずだ。
ズズズズズッが肝心なのだ。

 

そして、「体を冷やすところ」を正しく取り去ることによって、
あんなにたくさん食べたのに、次の日はお腹がすこぶる調子が良かった。
正しい食べ方は、体のためにもなっているのだ。

 

 

上海蟹は、新鮮であることと、
そして、なにより正しい食べ方。
これが、上海蟹がおいしい訳であった。

 

 

(蛇足ながら)
これは、KeePreと同じである。
KeePreは、そのケミカルとしての優秀さに加えて、
正しい技術で施工すること。
それが、KeePreが多くのファンに支持されている訳である。

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    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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