谷 好通コラム

2005年04月12日(火曜日)

1156.Trendy洗車ノ秘密

TEXAS San AntonioのRobertさんの「Ranger Rapid Wash」は、
私の思い込みでは「TEXAS快洗隊」であったが、
その実態はタッチレス洗車機のセルフ洗車場であった。

 

そのタッチレス洗車が、アメリカで、今、大流行だそうで、
先日のショーでも間違いなく主役であった。

 

 

このタッチレス洗車をひと言で言えば、
「高圧水スプレーによる超スピード・90%洗車」。
そして、
注目すべきは、この洗車を利用する人の“80%が女性”であるということだ。

 

 

さて、
高圧水スプレーそのものは、
車の洗車に昔から良く使われてきた。
水道水をプランジャーポンプで高圧にして、
強い圧力で水をボディーにぶつけて泥汚れを飛ばしてしまう物。
かなりきれいにはなるが、
ボディー上の汚れを100%飛ばしてしまうことは宿命的に不可能である。

 

つまり、
水がボディーにぶつかった時に、
ボディーの表面に薄い動かない水膜が出来て、
どんなに水の圧力を高くしても、その圧力を水膜の上で受け止めてしまい、
その水膜の厚みより小さい直径を持った汚れは、
動かない水膜の中で、やはり動かない。

 

スプレーの圧力を上げれば上げるほど、
その動かない水膜は薄くなるが、決してゼロの厚みにはならない。
だから、
ボディー上の汚れも、決してゼロにはならない。
また、圧力を上げ過ぎると、
ラインなどボディーに張ってあるシール物が剥がれる恐れと、
窓などのシールドを破って車内に水が入ってしまう恐れもある。
いずれにしても、
高圧水をスプレーするタイプの洗車は、
それだけでは、汚れを完全に落とすことは出来ず、
よく落とせても95%。残りの5%は、何らかの摩擦を加えなければ落とせない。
100%を望むならば、
作業の途中で泡でも掛けてタッチアップをするか、
最後の拭き上げ段階で、
水といっしょに薄っすらと残った汚れを拭き取ってしまうしかない。

 

この洗車機のすごいところは、95%のキレイに、割り切ったことなのであろう。
そして、その代わりに物凄いスピードを得たのであった。

 

?L字型アームからの高圧水スプレー・驚異的なスピード

 

この機械では、
高圧水のスプレーを、L字型のアームの約20箇所のノズルから行なっている。
そして、そのL字型アームを取り付けたシャトルと一緒に動かして、
アームを車の一周にグルッと回し、
物凄いスピードで高圧水のスプレーを終わらせてしまっている。
1工程約30秒
これは驚異的な速さである。

 

 

?大きなプランジャーポンプ

 

高圧水を作り出すにはプランジャーポンプを使うが、
その能力は一定であり、
「圧力×水量=能力」の関係にあって、
一定のプランジャーポンプの能力においては、
圧力を高めようとすれば、水量を減らすことであり、
逆に水量を多くしようと思ったら、圧力は下がってしまう。

 

だから、
ある程度の能力のプランジャーポンプで、
圧力を高めようとするなら水量を減らすこと、
つまり、ノズルの径を減らし、ノズルの数を減らすことだ。
日本の高圧水洗車機の多くの場合、
1~3箇所の少ないノズルから高い圧力の水をスプレーする方法をとり、
その少ないノズルを機械的に大きく動かすことによって車全体を洗う。
この方法は、
少ないノズルが大きな面積を動くことになり、時間がかかるという欠点がある。
言って見れば「点」で「面」を洗う形。

 

この機械の場合は
「線」で「面」を洗う。

 

つまり
・L字型のアームに“20!ものノズル”を着けて、
・「点」をつなげて「線」を作り、「線」で「面」を洗う。
・これで驚異的なスピードを得られる。
・一度にかなり大量の水量が出る事になる。
・それでも高い圧力は必要だ。
・ならばプランジャーポンプの能力を上げるしかない。
・バックヤードで見た巨大なプランジャーポンプがそれだ。
・この大きなポンプを動かす為に、大きなモーターと、大きな電力が必要となる。
・大量の水を使うので、その供給にも大きな投資をしている。

 

「驚異的なスピード」を得るために、
かなりの大きな設備投資を強いられる事になっている。

 

 

しかし、それでも、汚れはゼロにはならない。

 

 

?強いアルカリ洗剤の使用。

 

もう一つ汚れ落としの効果を上げる方法がある。
高圧の水スプレーをぶつける前に、
ボディーに強い界面活性剤(多くの場合アルカリ洗剤)をかけておいて、
その活性力で汚れを浮かせておいてから、水スプレーをぶつけるという手があり、
こうするとボディーに残る汚れの量はガクンと減り、
たしかに効果的ではあるが、やはり、ゼロにすることは出来ない。
その反面、アルカリ洗剤はPHが高く、
かかった時に、ボディーに強く付着している汚れを瞬間的に剥がす力を持っており、
それはかかった瞬間だけに発揮される力であって、
最初の一瞬にかかった所と、
その力を一瞬の内に無くしてしまった洗剤がかかったところに、
汚れの落ち具合に差が出てしまって、
汚れのムラ、垂れ筋のように残ってしまうという欠点も持っている。

 

これは、何十年も前からのジレンマであった。
このジレンマを今回のこの洗車機では、見事な方法と割り切りでクリアしていた。

 

この機械の工程を振り返ってみたい。
まず第一に、
この機械では、最初にPHの低い洗剤を車全体に掛けてから、
PHの高い洗剤を掛けている。
そして、30秒もの間じっくりと汚れにアルカリ洗剤を漬けている。

 

 

高PHの洗剤は、ボディーに当たった瞬間に汚れムラとか垂れ筋を作るので、
その前にPHの低い洗剤を車全体に掛けておくことで、
低PHの洗剤がクッションのような役割をして、
それを防いでいる。
加えて、高PHの洗剤と、低PHの洗剤では
得意な汚れ種類が違うので、
別々に使うことでそのコンビネーションの効果を高めているのだろう。

 

これで、アルカリ洗剤を使って汚れを減らす効果を上げると同時に、
この弊害を防いでいる。

 

 

?それでも汚れはゼロにはならない。

 

整理すると、
高圧水スプレーによる洗浄は、
汚れを少なくすることに効果的ではあるが、
効果を高めるために水圧力を高め、
スピードを上げるためにノズルを多くし水量を多くすれば、大きな機械を使うことになる。

 

効果を上げるためのアルカリ洗剤の使用は効果が大きいが、
汚れのムラ、垂れ筋がつく恐れもある。
それを、先に低PH洗剤を使用することで解決している。

 

効果的な高圧水スプレー+アルカリ洗剤で、
汚れを劇的に、かつスピーディーに減らすことは出来た。
しかし、
決して100%は落とすことは出来ない。つまり汚れがゼロにはならない。

 

ちょっと指で触ってやれば取れるような薄っすらとした汚れの膜が、
どうしても取れないのだ。

 

 

?「割りきり」による「超スピード洗車」

 

この洗車機で洗った結果は、
一見キレイにはなったが、薄っすらと汚れが残っている。
車好きの人であるなら、あるいはキレイの品質を求めている人なら、
とても我慢できるものではない。
汚れは、よく見なければ解らないが、はっきりと残っているのだ。
しかし、95%汚れは取れていて、
95%はきれいにはなった。

 

これで良いか悪いか、
それはお客様の方の価値観の問題である。

 

そして、その時の都合によっても変わるものでもある。
「あまり車が汚れているのは恥ずかしい。」
「汚れが目立たなければとりあえず良い。」
「もうすぐ雨が降るかもしれない。だから、100%キレイにしても仕方ない。」
「どうせまた汚れるのだから、95%のキレイさで十分だ。」
「車をピカピカにしてもしょうがない。汚れていなければ良い」

「速い方が良い。とにかく速い方が良い。」
「95%のキレイさで、60%の値段ならば、その方が良い。」
「95%のキレイさを、30%の時間で得られるならばその方が良い。」

 

こういう人もいる。
多分、いっぱいいる。
特にアメリカにはいっぱいいる。

 

?弱く、数日で流れてしまうワックス。

 

この機械にもワックスを掛けるコースがある。
(ワックスとは呼ばず、クリアコートと呼んでいる。)
しかし、この機械はあくまでも95%のキレイさにしかしない。
その上にワックスをかけてしまったのでは、汚れの上にワックスを掛けることになる。
汚れを封じ込めることになってしまうのだ。

 

それを、この機械では、弱い、数日で流れてしまうワックスで対処していた。
多分カチオン系のものだと思うが、
本当に薄っすらとしか掛からないし、これなら数日で熱と雨で流れてしまうだろう。

 

95%を求めた人にとって、これで十分であるし、
値段も、5ドルが、最高でも8ドルにしか上がらない。
そして、汚れを封じ込めることもない。
考えようによっては非常に合理的である。

 

日本の洗車機のように、ブラシで洗い残しが有る事が分かっていても、
タッチアップをする前の工程で、しかも自動的に、
分子的な結合を持ち、簡単には流れない強力なコーティングを掛けてしまっている。
結果的に、汚れの封じ込めを何度も重ねるという愚よりも、
よほど良心的であると感じた。

 

 

?洗いっぱなし。拭き上げなし。

 

Robertの店にいて、その来店数の多さには大変驚いた。
ホンの1時間程度の見学であったが、十数台の車が訪れ、
とっとと車を95%ほどキレイにして、風のように去っていった。
そして、そのすべてが洗いっぱなしで、洗車後、拭き上げをしていく人は一人もいなかった。
洗車棟とは別に、テント張りの快適なスペースが用意されていて、
そこで掃除機を使ったり、拭き上げのタッチアップをしてもいいのだが、
掃除機を使って室内を掃除していく人はいても、拭き上げをしている人はいなかった。

 

洗車が終わったらとっとと帰ってしまう、
すべての人が、“洗いっぱなし”であったのだ。

 

洗車の最後の工程は、「エアーブロー」である。
洗車室の出口に近いところにエアーブローの機会が据えつけてあって、
洗いの工程がすべて終わると、自動的に、エアーブローのスイッチが入る。
利用客は、しずしずとその風の中へ入っていく。
約60秒、エアーが出ることになっていて、
自ら車をゆっくりと動かすことによって、強いエアーブローを浴びることにある。

 

しかし、そのエアーブローを時間いっぱい使う人は稀であり、
ちょっとだけゆっくり車を強風に当てただけで、とっとと帰っていってしまう。
あとは、虚しくエアーブローが空回りしているだけ。

 

 

95%のキレイさを求めてきた人たちなのだ。
残り5%のキレイさを放棄する引き換えに、スピードを求めてきた人たち、
拭き上げなどは意味がないのであろう。

 

 

?拭き上げ無しは怖い現象を誘発する。そこでSpot Freeの水造り。

 

実は、洗車をして拭き上げ無しで済ます行為には、
非常に怖い現象を引き起こす要因でもある。

 

洗車に使われる水には、
それが井戸水であろうと、飲料に耐えられる水道水であろうと、
必ずカルシウムとかマグネシウムというミネラルがかなり残存しており、
(これらが多い水を硬水と言う)
この水を使って洗車をした後、
水がついたまま放置して乾いてしまうと、
ミネラルが塗装上に残り、
白い強固な汚れとしてこびりついてしまう。
一般にウォータースポットと呼ばれているものだ。

 

これが着くと非常に厄介なことになるので、
このシステムでは大きな設備投資をして、この問題を解決している。

 

水の中からカルシウムとかマグネシウなどのムミネラル分を、
イオン交換器で大幅に減らし、
また大きな設備で岩塩を点滴することによって、
(この手法を私は理解していない。)
ほほ「真水」に近い「水」を作り出していた。
そして、これを洗車の最後に掛けて“すすぐ”。

 

 

これを「Spot Free」と呼んで、
どのコースでも、一番最後の工程に設定されている。

 

海に遊びに行ったとき、
海で泳いだあと、
塩水が体中に着いているのを真水で洗うと、
さっぱりしてすごく気持ちがいいのを、みんな経験しているだろう。
あんな感じである。

 

Spot Free
これで、洗いッぱなしの自然乾燥をやっても、
ウォータースポットが出来る心配がなくなった。

 

 

?3~5分で95%きれいになる洗車完成。

・さっと洗車場にやってきて
・自分の好きなコースを選んで、
・自分の車に乗ったまま、車が3~5分待つと、95%車がきれいになって、
・5%の汚れは残っているが気にしなければ十分、タッチレスなので傷の心配もない。
・車を降りずに、そのまま帰っていってしまう。
・これで5~8ドル。(ハンドウォッシュの約半分)

 

こんな洗車があったらやってみたいと思いませんか?
すごく気軽に、負担なく、とりあえず車をキレイにすることが出来る。
そして、車に対する損傷の心配もない。

 

 

?女性の車に対する価値観にぴったり

 

Robertの「Ranger Rapid Wash」では、来店客の80%までが女性であるという。
これは私たちにとっては驚異的な数字である。
何故こんなに女性に受けているのか、ここで考えてみたい。

 

1.車から降りなくていい。
2.車を洗っている時、ブラシなどがボディーを触らないので、怖くない。
3.大きな機械が見えず、L字型のアームが車の周りを回るだけなので怖くない。
4.95%きれいになれば、人から見られたときに恥ずかしくない。
5.他の洗車よりも、安い、速い。

 

女性は、車というものにそれほど大きな価値観をもっていない人が多い。と思う。
だから、ピカピカにまでしたいとはあまり思わず、
「人から見られて恥ずかしくない程度にキレイでいてくれれば十分。」
「95%なら、もう十二分。」
「最後まで、車を降りなくていいのは、最高。」
「拭き上げしなくても大丈夫だって書いてあったし」
「手洗いの洗車の半分以下の値段だしね」
「キチンと手入れしたい時は、きちんと出来る所へ行けばいい。普段はこれで十分」

 

色々考えるのだが、
こんなところではないのだろうか。
実際に女性ドライバーが次から次へと来場されるところを見れば、
こんな理屈がなくても納得が行くのであろう。

 

わが快洗隊は体育会系?

 

わが快洗隊は、車のキレイを追求して、
ただ単なる洗車においても徹底的にこだわりを持ってやってきた。
その品質の高さは、お客様のリピート率が高いことで実証されているはずだ。
その代わり値段も高い。
一台あたりの洗車平均単価が5,000円以上あることは驚異的ですらある。
しかし、しかし、
お客様の80%以上が“男”なのである。
わが快洗隊は、実を言うと、あまり色気のないハードボイルドな店なのだ。
私は断じて否定するのだが、
アイ・タックが体育会系だから、快洗隊も体育会系になってしまったのか。

 

自分の車に対して、
そこまでお金を払ってキレイにしていたいと思える価値観を“車”に持てるのは、
やはり男なのであろう。

 

「車」は男にとって、道具であり、ホビーであり、ちょっとだけステータス。
少しお金を掛けてでも、キチンとキレイにしておきたいのだ。

 

 

そんな快洗隊と相対するのが、Robertさんの「Ranger Rapid Wash」。
私たちがどうしても呼べなかった女性客を、
ここまで吸引していることに感動したと同時に、
何が女性客達を呼んでいるのか、
何故、女性客に人気があるのか、一つ大きなヒントをもらったような気がする。

 

そして、その仕組みを裏付けているのが、
ハイテクのカタマリと、膨大な資金投下であることも、
ビジネスとしては大変面白かった。

 

Robertさんは私たちに何の義理があったわけでもないのに、
親切に感謝してもしきれぬほどのたくさんのことを教えてくれた。
我ら快洗隊同士なのだ。
これぞ縁というものか。

 

Robertさん、本当にありがとうございました。

 

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