2006年05月08日(月曜日)
1392.買ったお土産より
石垣島は、どちらかと言うと通過点であった。
私が好きなのは西表島。
西表島からすると、石垣島は大都会であって、
石垣島からすると、沖縄・那覇市も大都会。
でも、沖縄からすると東京は大都会で、
私にとっては、東京>那覇>石垣島>西表島 という構図になる
つまり、
石垣島と西表島のギャップの大きさは、東京と那覇のギャップと等しい。
だから、石垣島まで来て西表島に行かなかったのは、
例えて言えば、アメリカから東京に来て、でも沖縄までは行かなかった事に等しい。
今回の休暇旅行は私のお袋が一緒である.
お袋さんと一緒の旅行らしい旅行は初めてのことで、
すごく嬉しい。
珍しい事に、私は親孝行の真似事か、
あるいは今までの親不孝の埋め合わせをちょっとでも出来るわけだ。
いずれにしても、今回の石垣島は、お袋さんが主役である。
私は、ゴールデンウィークはほとんど休まない。
それは毎年のことなので別にどおってことないが、
それよりも、この期間はまとまって集中できる時間を得る希少なタイミングなので、
むしろ絶好の仕事日和となるのが通常だ。
だが、今回は特別であった。
一ヶ月ほど前
娘が子供を連れて旅行に行きたいと言ってきた。
これも極めて稀なことである。
多分、刑事である亭主があまりにも休みを取らず、
仕事にはまりきっているので、いい加減に愛想が尽きて、
「いっちょ、亭主をほおって遊びに行ったるか」と、思ったのだろう。
私としては、
「おー、ほっとけほっとけ、仕事好きの亭主はほおって置くのが一番じゃ」
とアジテーションし、
今回の石垣島行きが決まって、
その話にお袋も誘ったのだ。
どうせまた断られるだろうと思ったのが
何を思ったのか、一緒に行くという。
これでお袋、私達、娘、孫の四世代旅行が実現しそうであった。
ところが突然娘から電話がかかってきて、
「どうも二人目が出来たみたい。安定期に入るまで外出できない。ごめん」
という残念ではあるが、嬉しい知らせ。
というわけで初めてのお袋さんとの旅行が実現したのだ。
島内をレンタカーで回る。
超安全運転である。
そろりそろりと、島の中の見所を回る。
石垣島も、西表島と比べれば町といえるほど開かれているが、
内地に比べれば大自然の宝庫である事に違いない。
どこに行っても自然が濃い。
まず、近くの「八重島民族園」に行く。
ここには小さな“リス猿”が自然に近い形で飼われていて、
手からエサを上げることが出来る。
エサはウサギのペット用につくられた乾燥フードのようで、
小さくて愛らしいリス猿は、いつものフードには少し飽きていると見えて、
こちらのカバンやポケットをまさぐったりして、その仕草がなお可愛らしい。
天然記念物の八重山ヤシの森に入る。
中はまさにジャングルで、石垣島の本来の姿がそこにあった。
ジャングルの中から一直線に空に向けて伸びる八重山ヤシの幹。
そこから北へ北へと昇り、
蝶を見せてくれる素敵な店に入ったり、
マングローブの森を見たり、陶芸の店に入ったり、
あくまでもスローな旅。
最北端の岬までには二十数キロ。
寄り道を重ねてどんなにゆっくり走っても午後にはたどり着いてしまう。
帰りは島の東側を通って帰る。
白保の海岸のあるほうだ。
石垣に到着した時、気になる横断幕を見た。
「祝!新石垣空港、事業化決定」
石垣島の空港は滑走路が短い。
だから比較的小型ジェットのB737だけが就航している。
かなりの便数が飛び交っているのだが、
それでも客数が伸びないのは航空輸送力が少ないからだと、
滑走路の長い新しい空港を作ることが、地元の実業家たちの念願である。
その候補地に白保の海岸が上がっていたのだが、
この白保の海岸は、世界有数の“さんご礁”があって、
世界中の自然保護団体から強い反対の声が上がっていた。
その白保の海岸は、まったく観光化されていず、
しかも若い海岸なのか、死んだ珊瑚が大きな石のような状態のままで、
珊瑚が細かく砕けた白い砂になっていない。
だからビーチにならないのだ。
リーフ辺りの珊瑚の群生は、世界的に有名なほど素晴らしいのだが、
それはダイバーだけが見ることが出来るもの。
だから、一般の観光地としては開発できないある意味では“本物の自然”なのだ。
観光地として開発できなければ、
つまり、お金に出来なければ、それがどんなに素晴らしい自然であっても、
埋め立てて飛行場にした方が住民のためになるとは、
人間が自然の中で生かされているという事実に対する傲慢以外の何物でもない。
あの反対運動の後、
新空港がどこに出来る事になったのか、私は知らないので、
軽率なことを言ってはいけないが、
あの「祝!新石垣空港、事業化決定」の文字がすごく気になった。
白保の海岸へ行く道は細く分かりにくい。
堤防に座って、その若いさんご礁のリーフに上がる波を見ながら、
お袋が言った。
「何万年とか、長い時間かかって出来たこの珊瑚の石の方が、
買ったお土産より、うんと価値があるねぇ」
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