谷 好通コラム

2004年04月07日(水曜日)

929話 台南にいた仙人

イリさんが朝食のハシゴに連れて行ってくれた時、
「とっても景色のいい所があるから、そこへ行きましょう。」と言った。
台南市の郊外、海に近い方に向かう。
何軒か民家がかたまっている所があって、その一軒に入っていった。

 

百坪ほどの庭があって、
手入れの行き届いた芝生がギッシリと敷き詰められている。
エンジ色のトレーナーを着た長身の男性が、庭で何かをやっている。

 

ものすごくリラックスした空間である。
しかし、背広を着ている私たちがいかにも場違いな感じで、
最初は、かえって落ち着かない。
ここが誰の家であって、なぜ連れて来られたのか分からないが、
背広を脱いで、
庭のあずまやで、古木で出来たベンチに座っていると、
だんだんリラックスしてきた。
出しくれたお茶がうまい。

 

「何なんだろう、ここは」
そう思う頃には、不思議にすっかりと落ち着き、リラックスしてしまった。
一緒にいた荻野も、すっかりくつろいでいる。

 

 

申し訳ないが、この家の主の名前を忘れてしまった。
仙人のような感じがしたので、ここでは仮に“仙人”としてしまう。

 

この不思議な庭は、その仙人とお兄さんと友達が一緒に作った庭で、
西洋風でもなければ中国風でもない。
自分の感性と、たまたま海に流れ着いた流木を使って、思うがままに作ったらしい。

 

 

仙人は何者なのだろう。
物静かである。
決して自分をアピールしたり、自己主張をしない人だ。
そして、私たちが何者であるのか、聞き出そうともしない。
しかし、
ふっ、という感じで受け入れられてしまっているのが分かる。
私たちが何者であろうと、
友達であるイリさんが連れてきた人なのだから、
その時点で、もうOK、友達のように受け入れてしまう。
だから、こちらも自然にリラックスしてしまうのだろう。
風のような人である。

 

途中で庭に入ってきたのは、奥さんとお子さんなんだろうか、
挨拶をして、握手をして、やはり自然にそこにいる。

 

完全に乾燥させた果物のお菓子、味はほとんど付いていない。
ポリポリと美味しい。

 

 

何を話したのか、ほとんど憶えていないが、
笑っときの屈託のない笑顔が印象的であった。

 

 

庭には無数の“盆栽”が飾ってあった。
どれも小さなもので、いわゆる盆栽風ではなくて、
やはり、自分の思うがままに作った自分流の盆栽なのだろう。

 

 

中に面白いものがあった。

 

 

盆栽の中に人がいる。

 

 

あ~っ、釣り人だ。

 

 

一体いくつあるのだろう。
みんな一つ一つが小さな自然を表現している。
いくらで売れるかとか、そんなことはまったく考えていないのだろう。
自分が思ったように自然がそこにあるようだ。

 

あとでイリさんに聞いたのだが、
彼の職業は、彫金師で、時計の盤面など非常にこまかい細工物を造っているらしい。
一つ一つが違うハンドメイドものなのだろう。
経済的には非常に安定していると言っていた。

 

神経を集中ものなのだろうから、きっと夜仕事をしているのかもしれない。
昼間は太陽の下で、自然のような好きな盆栽を気の済むまで造って、
ここに訪れた人を和ませるような庭を造って、
穏やかにいっぱい話をして、
いい魚が手に入ったといってはパーティーを開き、
たくさんの人と穏やかに生きている。
そんな生活なのかもしれない。
(全部私の勝手な想像です。)

 

いいなぁ、こんなの。

 

あくせくしている私たちを見て、
イリさんが、ここへ連れてきてくれたのかもしれない。

 

素晴らしい自然の盆栽を前に、仙人にポーズをとって貰った。

 

 

南の国、台湾で
つかの間の、夢のような時間でした。

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    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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