谷 好通コラム

2005年07月21日(木曜日)

1215.大国アメリカの苦悩

世界一周出張の出発である。
まず中部国際空港から成田行きの飛行機に乗って、
成田からロスへ飛ぶ。
飛行機はノースウェストである。

 

中部⇒成田の便は、
国内を飛ぶだけだが、
成田でノースウェストの国際便に乗り換える人ばかりを乗せるので、
この便自体が国際便として飛ぶ便となっている。
だから、
中部のイミグレーションで入管審査もするし、
米国行きの国際便に乗る場合の厳しいセキュリティーチェックも受ける。

 

しかしそれにしても、
今回のような厳しいチェックは始めてであった。

 

チェックインカウンターで要注意の乗客がピックアップされて、
ノースウェストの専門のスタッフからいくつかの質問を受ける。
私と専務も引っかかった、要注意のようだ。
マジである。
冗談を言っても、相手にしてくれない。
そして、
荷物のチェック。
私の荷物はノーチェックで行けたが、弟の荷物が引っかかった。
預ける荷物と機内に持ち込む荷物を、
シャツ一枚一枚までを取り出しての異常に綿密なチェックだ。
チェックインカウンターの前に立ってすべてのチェックが終わったのが約1時間後。
あまりにも長いチェックで、とうとう昼飯を食べ損ねてしまった。

 

※この囲いの向こうで長い長いチャックが行なわれている。

 

 

テロリストの行動パターンが、
米国と欧州を行ったり来たりするパターンであるらしく、
それで、アメリカを経由してヨーロッパの方まで行くスケジュールの私たちが
ピックアップされたようだ。

 

加えて、一般の人の通る手荷物検査場でも、
今までのチェックよりかなり厳しくなっている。
金属物チェックのゲートでは、
反応を最高レベルにしているようで、
今まで滅多に引っかかったことが無いのに、
今回は珍しく私も引っかかった。
ちょっとムッとしたが、
ここまでやっていてもらえれば、かえって安心というものだ。

 

今まででは考えられなかったような厳戒態勢である。
ロンドンでの連続テロによるショックがよほど強かったのだろう。

 

米国の航空会社の中でも、
今乗っているNWA・ノースウェストエアラインが特に厳しいそうだ。
何か予告でもテロリストから来ているのだろうか。
お~怖い。

 

出発時間の1時間半前にチェックインカウンターに来て、
結局、搭乗までにタバコを一本吸うのがやっとの時間しか余らなかった。

 

 

更に、
飛行機に乗るボーディングブリッジの中で、また専務が捕まった。
また身体検査と手荷物をチェックさせてくれという。
今度は小さな手荷物なので、すぐ終わるかと思ったら、
今度も異常なほどのしつこさで調べる。
専務は靴を脱がされ、足の裏まで金属探知機を当てられている。
これは、本当にものすごい警戒振りである。

 

とうとう一番最後の搭乗となってしまい、
もうすっかり疲れてしまった。

 

 

ソビエト連邦が崩壊した後、
アメリカは、世界の唯一の超大国となった。
その経済力と、特に軍事力はずば抜けていて、
アメリカ 対 アメリカ以外すべての国でちょうど釣り合うぐらいだ。
正面戦争ならば、どの国と戦ってもアメリカの圧勝で、
ホンの数日で勝負が決まるだろう。

 

あり得ない話だが、
アメリカと、アメリカ以外のすべての国とが戦っても、
多分、アメリカは勝つのだろう。
それほど圧倒的な最新の軍事力をアメリカは持っている。
正面戦争ならば。

 

しかし、

 

戦争は、昔のように軍事力と軍事力が正面を向き合って、
大砲と鉄砲を打ち合い、
軍隊同士、どちらかが殲滅される前に降伏する。
という単純なものではなくなってきている。

 

毛沢東の言葉であったかホーチミンの言葉であったか、
「人民の海の中に潜み、敵を撃つ」というような言葉があったと思う。
圧倒的な軍事力を持った相手に、
小国のゲリラ訓練を受けた兵士が、いつもは普通の市民の中に混じって暮らし、
敵が市民の中に入ってきた時、待ち伏せし、あるいは、先制的に攻撃する。
攻撃したら、また市民の中に入って混じって生活する。
不屈のゲリラ戦法は、
ベトナム戦争でアメリカを追い出し、
アフガニスタン紛争ではソ連を追い出した。

 

ゲリラ戦においては、敵を降伏させることではなく、
敵を自分の国から追い出すという勝利の形である。
ゲリラ戦法は自国に攻め入る外からの侵略者あるいは支配者に対して、
最も効果的であり、唯一と言っていい戦法である。

 

正面戦争とは違った、静かな全面戦争で、
ゲリラの標的となった軍隊は、激しくはないが執拗かつ不屈のゲリラの攻撃に、
確実に消耗し、しかも真っ先に兵士が消耗して、
「その国から出て行く」という形の敗北を選んだ。

 

正面攻撃としての軍事力は、
長い時間を掛けた執拗なゲリラ戦に持ち込まれると勝ち目がなかった。
長期戦ではゲリラのほうが有利になる。

 

そこで、アメリカはイラクに対して短期決戦を目指し、
徹底的な攻撃を集中して加え、その場における軍事的な戦争的には勝ち、
長期のゲリラ戦に持ち込まれる前に、決着をつける事に成功したかに見えた。

 

しかし、本当の戦争は、テロという形になって長期戦に入ろうとしている。
自国の中でのゲリラ戦の力をも潰されたら、
今度は、自国の兵士を敵の国の中に送り込んで、敵の国の人間を殺すテロ。

 

昔は、
軍隊同士がお互いに出て行って、戦争をする場所で正面きって戦争し、
どちらかが降伏するまで戦った。

 

ちょっと前は、
小国が自国に入ってきた敵と戦うために、
自国の市民の中に潜んで執拗に戦い、
どちらも降伏はしないまま、敵を自国から追い出し、勝利した。

 

今は、敵国に潜入して敵国の市民を殺すテロ。
テロは、弱小軍隊が、強大な国に対して、恐怖を持って対抗できる唯一の方法だ。
多分ほんの数百人とか、数千人とかの規模の地下の軍隊が、
世界の超大国であるアメリカに、
自国民と自国を訪れる客に対して
飛行機に乗る度の病的なまでな執拗なチェックを、行なわせるだけの恐怖を与えた。

 

しかし、テロが悲劇的なところは、どちらにも“勝利がない”ことだ。

 

正面戦争での勝利は、敵の降伏。
ゲリラ戦での勝利は、敵が出て行くこと。
テロの戦争の勝利は、どちらにもあり得ず、終わりが見えない一番ツライ戦争となる。

 

戦う自分が傷つき死ぬのは覚悟の上でも、
その背後で、自分の愛する家族がいる場所に敵が密かにやってきて、
平和に暮らしている家族を殺していく、
テロはあまりにも残酷であり、卑劣であり、憎むべき手段である。
その目的が宗教上のものであろうと、何であろうと、なかろうと、
決して正当化できるものでない。

 

午後3時半過ぎに乗ったこの飛行機、
ボーイング747ジャンボ機の一番古いタイプの飛行機であった。

 

 

ロスを目指して東へ東へと飛び、今現在、8時間半が経った。
日本時間では夜の12時前、
日本にいれば、そろそろ寝ようかという時間である。
しかし、
ロスの現地時間では朝8時を差している。
その証拠に、飛行機の外がすっかり明るくなってきていて、
今が、これから寝る時間ではなくて、もう起きる時間であることを知らせている。

 

 

今回は結局、
飛行機の中で寝ることが出来なかった。
世界一周という厳しい出張の一回目の機中泊は失敗である。
(あと2回も機中泊があるのだ)

 

やっと目がだるくなって眠くなってきているのに、
朝ごはんの準備が始まって、もうすぐ配られそうである。

 

振り返ってみると、
日本時間3時半に出発、
5時ごろ夕食、
日本時間で6時半ごろには、
機内が真っ暗にされて「寝ろっ」ということだが、
そんな、夜の6時過ぎとか7時なんかに寝れる訳がない。
暗い機内で悶々としながら眼をつぶっていても、
日本時間の10時ぐらいまで経った時に少しだけ眠いかな?と思ったら、
トイレに行きたくなって、そのまままた目が覚めてしまった。

 

あきらめて、パソコンをポツポツ叩いていたら、
外は朝でありながら、
日本時間では夜12時という困った状態になっている。
今日の昼はツライ事になりそうだ。
前途多難である。

 

空港について、トニー谷川さんと感動の再会を果たしたあと、
早速ロスの市内に仕事に出て行く、

 

 

長い長い二日がかりの一日がやっと終わって、
今ホテルに入った。
この日のことは明日にでも書くとして、とにかく寝なければならない。

 

 

今日の感動したこと。
アメリカは強い国である。
単に豊かであって、軍事力が強大なだけではない。
国民一人一人が、戦うことを身の回りのこととして受け入れ、
自分の家族のために、隣人のために、若者がはるか遠い地に出かけ、
戦っているのだ。

 

住宅地の何軒かに掲げられている星条旗。
家族の誰かが遠くイラクに戦いに出ている家だ。

 

 

この国では、戦争は絵空事ではなく、身近な生活の一部であった。

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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